「金輪際、いいことなど起きない」このろくでもない世界で Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
金輪際、いいことなど起きない
これまではもちろん、これからも何もいいこととは縁のない乾き切った街で、遣る瀬無く、救いようなく展開していく半グレたちの物語。しかし変身の兆しも見せないヨンギュのために、命を投げ出したチゴンを理解するのが辛かった。半端なピカレスクにしか見えなかったです。
◉チゴンの一人芝居
退廃的な暗がりのシーンの中で、ソン・ジュンギ演じるチゴンだけが危うい光を放っていたと思います。いつでも普通の顔つきで人を支配して、傷つけもできれば殺すこともできる。ヤバいグループには必ずこんな一人がいそうで、またチゴンの振る舞いもややわざとらしいのだが、それが怖さを薄めてはくれない。あっという間に背後を取られそうなのだ。
しかしこのチゴンの凄みのみが、ピカレスクを引っ張ってしまった感が拭えないです。それにヨンギュが全く着いていけない。ヨンギュを演じたホン・サビンにできたのは、自己満足しながら、義妹ハヤンと青春小説の中に居続けることだった。
◉可愛そうな不思議青年
ヨンギュが縋るような眼で呟き、ハヤンも懇願して叫んだ「かわいそう」と言うフレーズに、何か特別な深いニュアンスでもあるのか。あまりに場違いな言葉を吐いた青年にできたのは逃げること。何かの間違いで自分に賭けてしまったチゴンを刺した後だと言うのに、疾駆するバイクに刹那感はない。歌を口ずさみながら、どこの街にでもふらっと止まりそうだった。
でも、自分だけを抱き締めていた…と言う点ではチゴンもヨンギュも一緒だったかも知れないです。チゴンは今はいない自分、ヨンギュは一番嫌いな存在である自分。