「何があれば彼を救えるのかはわからないが、来た道を振り返っても何も無いのだと思った」このろくでもない世界で Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
何があれば彼を救えるのかはわからないが、来た道を振り返っても何も無いのだと思った
2024.7.31 字幕 京都シネマ
2023年の韓国映画(123分、R15+)
閉塞感からアウトローの世界に足を踏み入れる少年を描いたクライム映画
監督&脚本はキム・チャンフン
原題は『화란』、英題は『Hopeless』で、ともに「絶望」という意味
物語の舞台は、韓国の明安市
そこで暮らすヨンギュ(ホン・サビン)は、複雑な家庭環境で青春時代を過ごすことになった
母モギュン(パク・ホギョン)は酒を飲むと暴力的になる男・チョンドク(ユ・ソンジュ)と再婚し、年頃の娘・ハヤン(ビビ)が義理に妹になった
ハヤンは何かしらの理由でクラスメイトからいじめられていて、それを見かねたヨンギュは、いじめの中心人物ミョンフン(チョン・ヨンジュ)の頭を石で殴りつけた
双方の親が出てきて話合いが行われるものの、300万ウォンの示談金を出せと言われてしまう
無い袖は振れず、義父にバレたらどうなるかわからない
だが、街角にて、一度会話を交わしただけの地元の半グレ・チゴン(ソン・ジュンギ)が彼のために金を用立てた
その後、チゴンの部下スンム(チョン・ジェグァン)から来るなと言われていたものの、ヨンギュはそれを無視してチゴンの元を訪れた
そして「雇って欲しい」と懇願する
チゴンたちはバイクを盗んで海外に流すことを生業としていて、スンムからキーの無いバイクの動かし方などを教えてもらう
そして、今までに得たことも無いような金を受け取ることになったのである
映画は、底辺の少年が行き場を失った挙句にヤバい世界に足を踏み入れるというもので、無知ゆえに危ない橋を何度も渡らされる様子が描かれていく
チゴンはヨンギュには荷が重すぎると思っていたが、彼にはこの世界で生きていく覚悟が芽生え始めていて、その潮流には逆らえなかったのである
物語は文字通り救いのない世界を描いていて、それを絶望と捉えるかどうかはその世界をどう見るかに依る
普通の人には絶望の世界にしか見えないが、この道こそ生きる道と思う人もいるので何とも言えない部分があった
ラストにて、チゴンはヨンギュに自分を刺させるのだが、チゴンにとってはあの世への道のほうが希望に見え、またその道はヨンギュにとっても希望への足掛かりだったと言える
普通に見れば地獄行きにしか見えないその道も、2人には質の違う希望に続いているところが奥深くもあった
いずれにせよ、しんどい展開が延々と続き、底が全く見えずにラストも悲惨に映る
だが、考え方次第では暴力親からの解放、組織からの解放にも繋がっていて、あの2人ならどこででも生きて行けそうにも思える
学がないことよりも、足を踏み入れた世界で覚悟を持てるかどうかと、我を失わずに俯瞰できるならば通用するのかもしれない
ヨンギュにはそれがまだ足りないものの、チゴンの選択を考えると、別世界に行くほうが未来があると言えるのではないだろうか