「「敗れざる者」とセットで、あくまで個人的な点を付けました。なんとな...」室井慎次 生き続ける者 M.Nさんの映画レビュー(感想・評価)
「敗れざる者」とセットで、あくまで個人的な点を付けました。なんとな...
「敗れざる者」とセットで、あくまで個人的な点を付けました。なんとなくは見れるので、星1はあったのだろうと思いました。あとは、私には合わなかったみたいです。
なので、以下に書くのは、あくまで「合うか合わないか」の話だと思っていただいて大丈夫です。
1 キャラクターがアイコンっぽい
生きてきたから出るはずの厚みが見えなくて、まるで「こういう仕事やこういう年代、こういう場所の人たちはこういうことを考えて、こういうことを言ったりやったりするだろうな」というレッテルの元で作られている台詞や行動ばかりに見えました。「敗れざる者」の女性弁護士の倫理観ゼロの発言とか、スマホを手にした若者(主に子ども側)の発言や行動(映し方が悪意あるように見えただけかも知れませんが)とか、商店で急にキレだして警察事みたいな暴れ方をし出す若者とか、近隣住民の描き方とかが主です。
私は、見ていくうちに恐らくこの映画は内容的に人間ドラマなんだろうと思っていたので、その人間の描き方がステレオタイプのラベリングだらけだと、「人間」を描きたいのではないのかな? と疑問を持ってしまい、何を感じて良いのか分からなくなってしまいました。
2 まとまりがないっぽい
「敗れざる者」を見た時に、死体遺棄事件のことや、アンのことなど、過去の事件が室井を追い掛けてきている印象で、実際に予告映像もそれらのことをピックアップしたものになっていたように感じていたため、それらの事柄が折り重なって一つに収束していくのかな、と勝手に思っていました。しかし、実際はそのどれもが物語の中心になっていく感じがせず、室井さんの言葉に絆されていくかたちで収束していきます(「敗れざる者」のタカとその実母を殺した犯人との面会シーンにも同じようなことがありました。)。犯人その者は東京の警察が勝手に捕まえてくれるし、室井さんが告げることは本件と無関係の説教だし、アンは自分から告白し出すし、その程度で済ませることだったのにどうして妙に謎めかして時間を引っ張ったのかな、メインっぽい予告にしたのかな、と疑問に思ってしまいました。
その他、里子たちのエピソード(タカの過去や恋愛事情とか、リクの過去や不登校とか)も、まるで無理やり詰め込んだ印象があって、映画として見るにはダイジェスト感が多いように感じました。実際、最初はBSでドラマ化する予定だったらしいので、その名残かな、とも思いましたが、だとしたら個人的には「映画」と「ドラマ」を構成する側が判断して作るはずではないかな? と疑問に思いました。
3 人間に対する見方・考え方が合わないっぽい
上記1、2にも共通する話題かもしれませんが、説教一つで人間が改心することが多過ぎる印象を受けました。「敗れざる者」でタカとその実母を殺した犯人が対面する場面で、いい大人が高校生男子に「お前たちはみんなこんなもんだ。」みたいな説教を一回されただけで自白し出すとか、今回のメインだと思われたレインボーブリッジ事件周りの死体遺棄事件の面会でも、今回が初対面であるはずの室井が、本件とは無関係の倫理観を教えただけで、懲りずに犯罪に手を染めていた殺人犯が自白し出す(もしこれと説教が関係なかったら、いよいよ映画的に無意味なシーンになると個人的に感じたので、多分説教が効いたということで考えています。)とか、個人的にはあり得ないな、と感じてしまいました。他人からの説教一つで善くなるなら、これまで何度も誰かの良い言葉に触れているはずですし、その人間が犯罪をするにも、それなりの人生の積み重ねと葛藤、正当化があっただろうと思うためです。
アンなんて、あの日向真奈美を母親に持ち、超複雑な人生を生きてきた結果、ほぼ洗脳状態で今の彼女ができたはずなのに、どうしてこの短期間でそこまで変われるのか理解できませんでした。
同様に、商店を荒らしていて、室井にも襲い掛かったチンピラが、「棚を戻そう」としか言わない室井に言われた後で改心したのも良く分からなくて、「それで更生するなら矯正施設はいらないよな」と思いましたし、何より、あの発言のどこに改心するポイントがあったのかが分かりませんでした。
私は個人的に、言葉が重くなるのは、その人の人生の厚みによるものだと思うからです。現代日本の20代が戦争を語るのと、戦争当時10代を生きたご年配の方々が戦争を語るのでは、その重さがまったく違うのと同じだと思っています。室井さんに言葉の重さがないとは思わないのですが、室井さんはただでさえ言葉で生き方を示せない不器用さが良くも悪くも特徴だと思うので、もっと行動で示してくれると良かったように思いました。「映っていないところで行動に移していたはず。もっと想像しろ」というのでは、観客に甘えすぎのようにも思えてしまいました。
4 倫理観が合わないっぽい
タカが恋している女子高生が、彼から身の上を聞かされた際に放った「お母さん天国に行けてないんだね」発言は、狂気的だなと感じてしまいましたが、その後で感動的に思える音楽を流す構成が一番よく分からなかったです。また、リクが同級生にやり返したことを褒める室井さんにも、低学年の子供に暴力の応酬を肯定してしまうんだな、と異質な感覚を覚えました。室井さんが警察官だったから尚更そう思いましたし、そういう心情の機微にも敏い印象があったので余計に変だな、と感じてしまいました。伝えたいことがそういうことじゃないのなら、余計、伝え方には気を配るべきなのではないかな、とも思いました。
一番は、室井さんがアンに銃を撃たせた後の件です。「銃は人を守るためのものだ。」と室井さんは言っていましたので、恐らく、どんなものでも使いよう、という道徳的な話かも知れませんが、個人的には、何をどう取り繕っても銃は殺傷能力の高い凶器であり、怖いものに変わりはないだろうということと感じてしまいましたし、その理屈では「守るために殺す」という屁理屈に対抗できないのではないか、と疑問を持ってしまいました。
あとサブキャラにも水の合わなさは感じました。例えば、キャラ立ちの為とはいえ、交番勤務の乃木が知っておくべき手続きを知らないことに一切恥ずかしさもなさそうにギャグで乗り切ろうとしているのは、天然でもわざとでも普通に職業倫理的に大丈夫なのかな、と思いました。次に、児童相談所の方々は、実際がどうかは分かりませんが、加藤浩次さん演じる出所してきた実父のもとに、どうして何の疑問もなく返せるのか理解できませんでした。元犯罪者だからではなく、明らかにリクを虐待しており、実父本人の性格的特性や生活状況等を鑑みても、帰住先として相応しくない、と普通は疑問に抱くのが人情ではないのかな、と思いました。上記にも書いたように、それが行政上の取り決めなら結果は仕方ないとしても、せめて葛藤がなかったのか。もしかすると、「血縁の強さは本当の絆なのか?」というテーマを描きたかったのかも知れませんが、それ以前に、キャラクターに葛藤がなければ人間ドラマは成立しないと個人的には思いまして、結果、観ている私は何をどう見て良いのか、良く分からなくなってしまいました。
5 構成に対する考え方が合わないっぽい
上記4でも書きましたが、音楽でその場面を意図的に構成側の持っていきたい方向に持っていこうとしている気がしてなりませんでした。これがダイナミックなアクションものとかなら、正直、人間味とかは求めていないので、視覚的に刺激的なら音楽はある程度受け入れられるのですが、個人的にこの映画はアクションも特になく、サスペンス性も薄く、ミステリー要素も大して取り入れていないのだろうと思った結果、人間ドラマだと思っているので、音楽を多用するよりも無音で登場人物の発言や所作で心情やテーマを発信した方が重厚感が増すのではないかな、と感じてしまいました。個人的に、人間ドラマは人間の在り様を描くものであって、構成側の意図を音楽などで操作的に示すものにすると一気に軽くなると考えるからです。
あと、物語構成でも合わないなと思うところはありました。室井さんが雪山で死んだと思われる際に流れた救助隊の無線で、「犬が離れない」ことを矢鱈泣きながら言っているシーンがあって、これも個人的に過剰だし、そのことを強調する暇があったらもっと状況を報告するのが仕事ではないかな、とか思いました。しかも、その後でボロボロになって犬が戻ってきたことを見ると、「もしかしてあの後、保護もしなかったのか? そこまで室井さんから離れなかった犬なのに放置したのかな? というか、ここで離れなかったのならどうして銃声で逃げ出したのかな? 銃声ならアンのところで聞いてるよね? それ以前にほぼ放し飼いで問題のない賢い犬のはずなのに、どうしてそんなににげちゃったのかな?」と余計なことまで邪推してしまい、どうにも、室井さんを殺すためだけに無理やり用意されたシーンに思えてしまいました。
以上です。長々と合わない点ばかり書きましたが、演じている方々は皆さんとても素晴らしく、子役の方も含めて見応えがありました。それに、テーマも私なりに、室井さんをとおして「繋がりの大切さ」とか、「本当に意味で生き続けるとは何か」などについて描いていると受け止めること自体はできましたので、実はそこまで「時間の無駄だった」とまでは思っていません。ただ、個人的には「何も考えず、仕事帰りにふと思い出して観てみるくらい」でも良いのかな、と思いました。
読んでくださった方、長文失礼しました。ご拝読、ありがとうございました。
激しく同意します。人間の描き方は本当に表層のみ描いている感じで、武道の型を見るようでした。こうしたらこうきて、ハイみんな泣くでしょみたいな、お約束みたいな。
加藤浩次や子役の子が街から歩いて室井さんの家に来た?みたいな描写とか現実離れしたストーリーにも必死でくらいつきましたが、個人の感想ですが、ヒューマンドラマならばせめて人間の多層な心理を時間をかけて描いてほしかったです。楽しみにしていた室井さんの映画がこれで、悔しさもありましたが、ここのコメントを見て、魂が浄化されました。