「内に秘めた熱い信念とドラマ性に胸打たれる」熱烈 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
内に秘めた熱い信念とドラマ性に胸打たれる
この映画には光と影が刻まれている。冒頭の煌びやかなステージ。鳴り響く音楽。観客が発する熱い歓声。これら判で押したような盛り上がり描写は個人的にいささか苦手とするところではあるが、本作はそのシーンを抜けると、今度は正反対にある光の当たらない場所へフォーカスし、人知れず努力を続け、苦難の中でも夢や希望を失わず、ひたすら寡黙に歩んでいく青年の姿に寄り添うように描写を重ねる。そこで初めて本作が単なるノリやスポ根ではなく、主人公の信念を丁寧に紡ぎ上げようとしていることに気づくのだ。お調子者のコーチの変容も極めて重要な部分だ。勝ち馬に乗ろうとする気持ちと、主人公が持つわずかの可能性に賭けようとする思い。これらの葛藤が魅せる。かくなる登場人物の様々な感情が相まって、やがてもう一度訪れるステージ場面は最高潮の興奮で一杯になる。コミカルかつ飄々とした表層と裏腹に、熱い思いを内に秘めたドラマとして評価したい。
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