劇場公開日 2025年2月14日

「前後半の想像を絶する転調ぶりに震撼させられる」聖なるイチジクの種 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0前後半の想像を絶する転調ぶりに震撼させられる

2025年2月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

かつて巨匠たちが創造性豊かな映画を作り出していた時代が幻想のように思えるほど、近年のイランは銀幕上で非常にキナ臭く映し出される。おそらく本作はその最高峰。167分と長丁場ではあるが、亡命したラスロフ監督にとってはその一分一秒が命と引き換えに獲得した貴重な時間の集積と言えよう。本当にこの国は誰が何のために戦っているのか理解しがたいところがある。それこそ「知らない」「わからない」は序盤において父の職業に対して向けられる言葉だが、中盤で不協和音が一気に高鳴ると、その全てが自己弁護のための切実な叫びに変わる。チェーホフさながらに不気味さの象徴たる銃の存在が際立つ一方、後半の家庭内ではまさにこの国の縮図のごとき超絶スリラーが展開。それに対し、未来を担うべき者はいかにして立ち向かうのか。その決死の転調と、撒かれた種が地を這って一斉に発芽するかのようなラストといい、息つく暇のないほどの緊張の連続だった。

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牛津厚信