時々、私は考えるのレビュー・感想・評価
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希望の灯り
こんな職場で働けたら、と、私も妄想してしまった。
コミュ障な主人公に対する、周囲の人々の距離感がとてもよい。
フランが職場の皆さんにドーナツの差し入れをすれば、全員が口々にフランありがとう、と言って喜んでシェアする。ホームパーティーでは、彼女の渾身の演技を大いに楽しんで、またぜひ来てよ、と言われる。
決して無理強いしないがフランが自分からコンタクトを望めば受け入れる、温かい人達。
貨物船が来て貨物の積み下ろしがあるような小さな港町の佇まいが良い。
そんな街で、こんな職場で、こんな人々と過ごせたら。
私だったらそれだけで毎日が幸せだ。
自分が死んでいる妄想をするのが密かな楽しみという彼女は変わっているが卑屈なわけではない。無理に人に好かれようとしないので他人に忖度しないし不本意な社交もしない。行きたければ行く、したければするという、良い意味で自分本位なところは逆に羨ましい。
ロバートみたいな人は私はちょっと苦手だが、フランには好もしい人なんだろう。
彼の二度の離婚の原因はよく調べたほうが良いと思うよ。
定年退職した元同僚の姿に、考えさせられるものがありました。
フランの今後には、希望の灯りしか見えない。
そんな映画は珍しいなと思った。
小さいがゆえに愛すべき世界
完成度が高い名作とは言えないかもしれないけれど、心の糧にしたい映画に出会った。
不器用な女性社員が、新入社員でありながらも人付き合いに慣れた男性の誘いに乗り、新しい一歩を踏み出す。褒められることにも自分を語ることにも慣れておらず、相手に期待外れを感じさせてしまったり、不用意な言葉で傷つけてしまったり。小さな波風を味わいながら成長していくという予想の範囲内のストーリー。
人となじめない主人公フランが、同僚たちへの手土産にドーナツを買っていき大げさに喜ばれる場面は映画「夜明けのすべて」にそっくり。どちらの会社も、事情を抱えた主人公を適度な距離で見守ってくれている。ただし本作については何の仕事をする会社なのかは不明で、社員たちはランチに何を食べるか、窓から見える港の景色の変化などを始終おしゃべりしている。そうした会話が、フランの耳を無意味な音声の連なりのように通過していく描写が続く。
タイトルにもなっているようにフランは「時々、死ぬことを考える」(邦題では「死ぬことを」という重たい部分が省略されている)。 本当に希死念慮があるのかもしれないが、他者と同じ世界に居合わせながら、同じ話題や感情を共有できない主人公の孤独を表現しているように思った。同僚たちが会話に熱中しているとき、フランは自分を持てあまし、空想に浸らざるをえないのだ。
そのようにフランを置き去りにする同僚の会話を、不思議と耳障りには感じなかった。社員たち各人もじつは孤独であり、食べ物をめぐる他愛ない会話が、つかの間それを癒してくれる。そんなドライで、熱くなりすぎないけれど暖かい世界が描かれているように思った。
わからない英会話を少しだけ聞き取れたときのように、かすかに他者との接点ができる。しかしストーリーはそれ以上ドラマチックに広がっていくわけではない。そこを物足りなく感じられるかもしれないが、これは何度でも繰り返せそうな小さい一歩。そこに希望を感じた。
人づきあいが苦手な主人公の日常に、自分を投影して、いちいち痛い。 主演のデイジー・リドリーの繊細な演技に感動。こういう映画も大事。
人づきあいが苦手な主人公の日常に、自分を投影して観てしまう。
チャットのやりとりなど、ちょっとしたことに戸惑うことなどに、身につまされてしまい、観ていて、いちいち痛い。
わかる。
彼女にとって、ホームパーティに訪れて、殺人ゲーム?に参加するといのが、いかに大変なことかと思う。
慣れない会話で、言ってしまった一言に週末の間、ずっと一人で後悔して思い悩んでしまう。
月曜日に出社したあと、謝って泣く。
映画としてはとってもミクロな出来事が、取り上げられていることに感動します。
こういう作品が存在することも「映画」のいいところと思う。
主演のデイジー・リドリーが「スター・ウォーズ」のフィンという超大作の主演と言う大役とは真逆の役を好演。
とても繊細な感情の揺れの、大げさではない演技がとても良かった。
「時々、私は考える」として、原題にある目的語を書かないところがいい。
日本語の面白さがある、いい日本語題名と思う。
ちなみに、私も自己紹介では、無難な線でもあるので「映画好きです。」と言います。
つい受けを狙って「年〇〇本見ます!」と言ってしまうのですが、そのときは、引かれないように少なく言うように心がけてますw
生きるって難しい
時々、私は死を考える。が正解の内容。
人付き合いが苦手で、デスクワークの小窓から眺めるクレーン作業をみてはあのフックに首を吊ってみたらどうなるのかと妄想にふけたり、或いは死の世界を連想させる緑いっぱいの木々に囲まれた世界でただぼんやりと空を眺めている。
或いは、浜辺のビーチで流木を拾い集めテントにすると中に入り寛いでいる。
それらは全て死後の世界だったのだろう。
唯一死後じゃないとしたら単独事故を起こしたと連想して急ブレーキを踏んだシーンではないかと思っている。
大好きだと話したカッテージチーズはチーズが好きではなく菌が好きだと否定するなど主人公のフランが人付き合いにおいて周りとあわせるのも、気を遣いたくないから今迄避けてきたのでは?
そんな楽しみが見いだせないフランに新入りのロバートが入社すると、明るくてフレンドリーで優しいロバートに対し次第に心を開くようになり、やがて二人で逢瀬を重ねるようになっていく。
仕事以外の楽しみを見つけたが、ロバートがバツ2であることを知り、過去を許容できないフラン
は思わずロバートに言ってはいけないことを話してしまいロバートを怒らせてしまう。
その結果、2人の関係に溝がうまれるわけだが、ロバートの前任だったキャロルとフランが偶然にも再開を果たすとクルーズで旅行に出かけていたはずが実は夫の介護をしている事実を知る。
キャロルはフランが何を抱えているのか悟ったのかフランに対し適切なアドバイスを送り、今までしてこなかった差し入れ用にドーナツを買ってきたりと、今までしてこなかったことをして周囲を驚かせると、その中にロバートの姿があった。
フランはロバートに別室にくるように促すとロバートは嫌がる様子もなく別室へ入る。
フランはロバートにきついことを話して申し訳ないと話し、ロバートも冷たい対応に出て悪かったとお互い謝罪して仲直りしたあと、フランはロバートに今まで悩んでいた自殺願望を打ち明ける。
それを知ったロバートはフランを優しく抱き締めた。大丈夫だ、俺がいる。力強く背中が物語るラストが非常に印象的だった。
【”私はツマラナイ人間なの。”人付き合いの苦手な女性が、少しづつ自分の殻から出ようとする姿が印象的な佳品。デイジー・リドリーって大作スターだけれど、今作の様な小品での佇まいも良き女優であるなあ。】
■人付き合いが苦手なフラン(デイジー・リドリー)の職場に、定年退職したキャロルの後釜に来たロバートが来る。
彼女は、髭面で優しそうな彼に、少しづつ興味を持って行く。
◆感想
・フランの職場での態度が控えめで笑顔もあまり見せない。キャロルの送別の色紙のメッセージもほんの一言。彼女の挨拶の時も、一番後ろで黙って見ている。
けれども、それが彼女の性格だという事が徐々に分かって来る見せ方が巧い。
職場の皆も、そんなフランと普通に接している。
・ロバートと、席がすぐ近くなのにチャットでメッセージを交わしつつ、度々仕切りから彼の様子を見る姿が可愛い。
そして、彼女の得意な事。それは表計算ソフト。クスクス。
・フランは寝るときに、不思議な空想に耽る。それは、彼女が森の中や、海岸で死んでいる空想である。変わっているなあ。
■けれども、フランはロバートから映画に誘われて、一緒に行く。気になる人だからね。
で、帰りに軽く食事をした際にロバートから感想を聞かれた時の答え”面白くなかった。”オイオイ、そこは合わせてようよ、と思うがフランだからね。悪気はないんだよね。
で、ロバートから家に誘われると、付いて行くのである。
そして、映画好きの彼から”音楽聞いててね。映画音楽だけど・・。”と言われて掛けたのが、ナント”ミステリー・オブ・ラブ”。
ジュリー・クルーズの浮揚した美しいヴォイスが印象的な幽玄耽美な曲である。
という事は、二人で観た映画はデヴィッド・リンチの「ブルーベルベット」だろう。
そして、彼女はロバートから感想を聞かれて”これは、好き。”と答えるのである。そうだよなあ、死の空想に耽る人だからねえ。
そして、ロバートから誘われて、パーティに出席してそこには職場のギャレットも居て楽しい時を過ごす様になるのである。
・けれども、その帰りにフランは、ロバートから色々聞かれて、”そんな事だから、奧さんと別れるのよ!”と言ってはいけない事を言ってしまうんだよね。不器用だなあ。けれど、彼女が無垢でもある事の証明なんだよね。
■で、翌朝フランは、ドーナッツ店に出勤途中に寄った時に、寂しそうに一人で座っている夫とクルージングに行っているはずのキャロルと出会い、彼女から”夫が病気なの。”と言われて、少し考えて、職場の皆にキャロルから勧められたドーナッツを買って行くのである。
驚き、喜ぶ職場の人達。
その姿を見てから、フランはロバートを倉庫に読んで“ゴメンなさい。”と涙を流して謝るのである。
フランが、少し自身の殻を破った瞬間であろう。
<今作は、フランの沈黙も葛藤も受け入れる温かい職場の人達に囲まれながら、少しづつ殻を破って行く姿を描いたヒューマンドラマの佳品である。
ご存じのように、デイジー・リドリーは「スター・ウォーズ」で大抜擢されて、あっと言う間に大スターになった女優さんだが、制作にも関わった今作では、別の魅力ある姿を見せてくれている。素敵な女優さんだと、私は思います。>
生きづらさを抱えた女性が、人間関係にストレスを感じるたびにふっと空想の中へ現実逃避してしまう…私もそこそこコミュ障なのでね、とても共感できますよ!
大きな事件が起こることもない、一見地味な作品ですが、繊細でしみじみと心に残りました。
主人公のフランは、誰とも話さず、淡々と会社に行って帰るだけの毎日を過ごしています。
それでもいいのですが、和気あいあいとした会社の雰囲気に全くなじめないのは少し寂しい気も。
特に、気になる男性が現れたりすれば話は別ですよね。
ロバートが職場に来てからの、フランの控えめな(でも一生懸命な)頑張り、そして空回り。また、大事なところで心を閉じてしまうところなど、とても繊細に描かれていました。
映画を見に行っても「面白くなかった」と正直に言ってしまったり、つまらないジョークを言ってしまったり…人付き合いが苦手で、ずっと避けてきた代償だったのかなと感じました。
一方、フランの勤める従業員10人ほどの小さな会社は、コミュニケーション能力、雑談力が異常に高い人たちばかり(笑)
何の苦もなく、毎日他愛のないおしゃべりを楽しんでいます。
フランには優しく接してくれて、認めてくれているようだし、フレンドリーでいい人たちなのですが、彼らの様子を見たら、話すのが苦手で輪に入れない自分を、情けなく思うかもしれません。
だからって死を連想するなんて大げさでは!? とは、人付き合いに苦を感じない方々の言い分で、おそらくフランはそんな自分に強い劣等感を持っていたのでしょう。
彼女に自信をもたらした場面がいくつかありました。
ロバートにこっそり仕事を教えること、パーティーのゲームで独創的なアイディアを出したこと、元同僚の、人には言えない秘密を聞かせてもらったことなど…。
小さな挑戦の積み重ねが、フランを少しずつ強くしていったのでしょう。
彼女の希死念慮は幻想的で、一見、現実逃避や空想を楽しんでいるようにも見えますし、公式にもそう書いてあります。
でも本当にそうなのでしょうか。私は彼女が実は苦しんでいたように見えて仕方ありません。
クレーンを見たら自分が吊られている姿を連想してしまうなんて、やはりつらいことのように思えます。
ロバートに心を開いてハグするラストシーンに、これまでのつらさが表現されているように見えました。
陽気すぎる職場の仲間に馴染むにはもう少し時間がかかりそうですが、無理せずに少しずつ慣れていけばいいな…そんな優しい気持ちになれる作品でした。
レイチェル・ランバート監督、覚えておこうと思います。
ケーキとドーナツ
*
フランが住む街はとても静か
勤める職場は日本の中小企業のような雰囲気で
その時点で日本人には合いそうな作品だな、と
映画に国籍や人種は関係ないけれどね
この作品のチラシを読んだときに
なんだこの僕みたいな人はって思った
だから余計に公開されるのが楽しみだった
*
フランが空想に耽る死はとても綺麗で
美しい自然と音楽によって彩りがもたらされる
本当にあんな美しい森で死ねたら幸せかも
*
退職される方への寄せ書き
たいして話したわけでもない人に
何か書けるわけでもないので無難な一言だけ
ものすっごくわかる…
関わりの濃かった
仲良い人たちでやれば良くない?って思う
自分の寄せ書きなんて邪魔なだけでしょ
みんなでお別れパーティー
フランは輪に入ろうとしないで
楽しそうな皆んなをただ見ている
切り分けられたケーキをそっと持ち帰り
家でくつろぎながらフォークで
ぐっちゃぐちゃにしてるシーンがなんか好き
*
ロバートとの出会いは
人生のターニングポイントに
ここからフランは変わって行く
職場にいる楽しい人との
チャットのやりとりって楽しいよね
わかるわかる わかる
ロバートみたいに積極的に
コミュニケーションをはかってくれるひとは
とてもありがたい存在なんだよね
自分から行けないから……
話したいけど話題がない、見つけられない
だからなんて声を掛けたらいいか分からない
*
知ろうとしてくれるのは嬉しいけど
テリトリーがすごく厳重だから
そこに踏み込まれると
途端に遠ざけたくなってしまう
だからとても熾烈な言葉を
相手に浴びせてしまうんだよね…
やっと色々話せる人に出会えたのに
自分の一言で傷つけてしまった
もうダメだ終わった、って落ち込む
僕だったらそのままフェードアウトする
だけどフランは違った
ちゃんと「ごめんなさい」と謝って
関係の修復をきちんとしていた
殺風景なコピー室と街の風景に
豊かな緑が茂っていく
二人の関係性とフランの成長と
心の豊かさが表現されているかのよう
エンドロールをぼんやり見つめながら
最初から最後までを頭のなかで振り返って
パーティでもらったケーキを
ぐちゃぐちゃに潰していたフランが
職場のみんなにドーナツの差し入れを
するようにまで人と関われるようになって
ものすごい心の変化に涙……
*
「こんな空想好きでしているわけじゃない」
いつもしている死の空想に
フランが泣いたのは、泣けたのは、
きっと心が変わったから
ロバートという太陽の光が
心にすっと差し込んだから
ぼんやりとただひとりで生きていると
生きてても死んでても同じかな…
なんて思ったりする
でももうひとりじゃない
ロバートもいるし、職場の人だっている
ドーナツの空洞の中心に立って
周りのみんなの笑顔を見ることができた
「そういえば最近私死んでないわ」
笑顔でロバートに伝えるフランが
すこし先の未来にいたらいいな
*
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