「小舟のようにゆったりとたゆたう」時々、私は考える 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
小舟のようにゆったりとたゆたう
まるで写し鏡のような映画だ。ここに刻まれた93分間の軌跡を、取るに足らない時間と捉える人もいるだろうし、逆に自分の内面を見透かされたようなハッとした気持ちになる人だっているはず。どちらの反応があったっていい。いずれにせよ、本作はゆっくりとした時間の流れと、美しい日常の景色で浸されている。デイジー・リドリー演じる主人公は他人と交わろうとはしないし、職場の皆も彼女の人柄に理解を示しているかのよう。だが、そこに新たな同僚が投入されることで化学反応が生じる。相手へのささやかな関心。二人の間で築かれる交流。海に浮かぶ小舟のような日々が、やがて流れ着く岸辺。みんな何かを抱えて生きている。そんな中で相手を思いやり、ふと想いをかたちにすることの難しさと尊さ。それは何かを変えるかもしれないし、変えないかもしれない。が、少なくとも誰かのことを大切に想った事実に変わりはない。その愛おしさを噛みしめたくなる一作。
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