「夢を見させる建物」WALK UP かなさんの映画レビュー(感想・評価)
夢を見させる建物
映画監督のビョンスは娘のジョンスを連れて旧知のインテリアデザイナー、ヘオク所有の建物を訪れる。机を挟んで三人の会話劇が続いていく。ビョンスのスマートフォンが鳴り彼は打合せのため中座する。その後ジョンスとヘオクがビョンスの話で盛り上がりジョンスはヘオクに仕事を教えてもらいたいと懇願する。ジョンスはワインがなくなり外に買いに行く。
ビョンスがまたヘオクの建物に来る。そして1階、2階のレストラン店主ソニが加わり三人でワインをしこたま飲みながら会話が続いていく。会話の途中でビョンスが映画製作のことで憤りを発散したり、なぜかソニは泣き出してしまう。二人が自然に自分の感情をあらわにできる二人のフランクさが、バルコニーでタバコを吸うビョンスの笑顔に象徴される。
前述した二つの挿話はまだ連続性がある。時間が現在から未来へ通常通り流れている。しかし、三つ目の挿話に入った時、時間の連続性が断絶されていて見る者は戸惑う。映画を短編集としたら納得すると思いなおして見続けた。
三つ目の挿話のストーリーの前半は理解可能だ。二つ目の挿話でビョンスとソニの関係性を見ていたから。しかし三つ目の後半と四つ目の挿話はまったく時間の連続性がなく、ストーリーの脈絡を追いかけようとしても理解不能なのだ。
映画にそもそもストーリーの脈絡が必要なのかと疑念がわく。映画館に入りまさに夢を見ることも映画的体験だ。ホン・サンスの描出する映像と会話は、まさに見る者に対して夢体験を提示したのだ。ファーストシーンとラストシーンの車とジョンスの態度と口のききかたがまるで違い、驚きしかない。真実と夢、その境界も判然としない。建物に入った時、夢が始まったのか。
夢は地下一階、地上四階の建物が見させている。映画の進行とともに、地下一階、二階、三階、四階と四つの挿話で階数が変化していく。見る者は地下一階から徐々に上の階に歩いて上がっていき、そこで繰り広げられる会話劇をお馴染みの長回しで見せつけられる。まるで建物の上階に上がっていくうちに徐々に深い夢の世界に入っていったようだ。