劇場公開日 2024年6月28日

WALK UP : インタビュー

2024年6月28日更新

名優クォン・ヘヒョが来日 巨匠ホン・サンス監督の現場、印象深い韓国ドラマの出演作は?

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韓国の名匠ホン・サンスが、都会の4階建てアパートを舞台に、映画監督のビョンスと彼を取り巻く4人の女性との関係を軽やかに、ユーモラスに、美しいモノクロームで描いたドラマ「WALK UP」が6月28日公開となった。ホン・サンス監督の常連であり、韓国の実力派俳優の主演クォン・ヘヒョが来日し、映画.comのインタビューに応じた。

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<あらすじ>
 映画監督のビョンスは、インテリア関係の仕事を目指す娘ジョンスとともに、インテリアデザイナーとして活躍する旧友ヘオクの所有するアパートを訪れる。そのアパートは、1階がレストラン、2階が料理教室、3階が賃貸住宅、4階が芸術家向けのアトリエ、そして地下がヘオクの作業場となっていた。ワインを酌み交わしながら、和やかに語り合う3人。やがてビョンスは仕事の連絡が入ったためその場を離れるが、戻ってくるとジョンスの姿が消えていた……。

――クォンさんは「3人のアンヌ」(2012)から、ホン監督の作品にコンスタントに出演され続けています。お互いどのような部分に共鳴し、長年お仕事を続けられていると考えますか?

ホン監督は、1996年以降、28年間にわたって、韓国だけではなく世界的に見ても唯一無二と言えるような映画を作っていらっしゃいます。その仕事には全く迷いがなく、常に自分の撮りたいものを撮っている。そういう監督ですから、韓国の俳優であればぜひ一緒に仕事をしたいと考えるでしょう。私はホン監督の映画に出演させていただけるのを本当に幸運だと思っています。そして、毎回一緒に作品を撮るたびに驚かされています。

この「WALK UP」も含めて、既に公開された作品、そして公開を控えている作品も含めると、これまで12本くらい一緒にやっていますが、1度も戸惑ったり大変だと思ったことはないんです。今回、2階でワインを飲むシーンがありますが、17分の長回しなんです。そういうテイクにはかなりの集中力が必要とされますが、俳優にとって、とても楽しい経験になるのです。

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――今作「WALK UP」で、クォンさんが演じる役は、まるでホン監督の分身のようにも見えます。ホン監督は、撮影当日にその日の脚本を俳優に渡す、ということでも知られていますが、ホン監督作品では、他作品とは違った役作りのメソッドを試すことはありますか?

私に特別な役作りの方法というものはないんです。私がホン監督の分身というよりも、これまでホン監督の映画に出演した多くの俳優さんたちも、映画監督という役を演じることが多かったと思います。私もその中の1人です。そして、おそらくそういう設定にしたのは、ホン監督ご自身がよく知っていて、自分の気持ちを率直に表現できる役柄が、やはり映画監督だからなのでしょう。

そして、撮影直前まで、撮影が始まってから終わるまで、自分の役について私が知ることのできる情報は、その職業についてのみなのです。毎朝、ホン監督から台本を渡され、その時に、ここに書かれている意味はなんだろうかと、その意味を探って演じていきます。そういう時間が積み重なって、1つのキャラクターが完成していく感じです。

俳優が一般的な作品に臨む時には、事前に脚本を読んで、これを表現しよう、こう演じよう、と、事前に計画を立ててから演技を行いますが、ホン監督の作品の場合にはそういった計画は存在しないので、とても自由に、肩の力を抜いて居心地よく演じることができます。そして、これは冗談半分ですけれども、もしそのシーンで失敗したとしたら、私の失敗ではなく、ホン監督の失敗だっていう気持ちもどこかにありますね(笑)。ですから、俳優はプレッシャーなく演じられるのです。

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――当日に脚本を渡されるということで、演技にアドリブ、即興性も求められるのですか?

長年ホン監督の映画を見続けてきた観客は、おそらく俳優のアドリブがあると信じていると思います。ところが、私が知る限り、私が出演している以外の作品も含めて、ホン監督の映画にアドリブというものは一切存在しません。私自身もアドリブを入れたことはないですし、セリフは完全に脚本のテキストに沿って、語尾までテキスト通りに演じています。

唯一例外は、今年のベルリン映画祭で審査員賞を受賞した「A Traveler’s Needs」という作品でイザベル・ユペールさんと共演し、とあるシーンで、私が「Do you mind?」と尋ねてボールペンを借りました。とっさにそういう行動をしてしまったんですが、それは台本にないものでした。私の記憶の中で、ホン監督の作品での即興の演技はそれくらいです。

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――日本では韓国ドラマが人気で、まずはドラマでクォンさんを知りファンになったという人も多いのです。ドラマでも様々な役を演じられていますが、印象深かった作品、共演して影響を受けた俳優さんを教えてください。

ドラマに関しては、私が個人的に好きな作品と、たくさんの方から愛された作品とではちょっと記憶が異なります。私は多くのドラマに出演しているので、私の好きな作品だけを挙げても、日本ではご存じない方のほうが多いと思います。そんな中でも、私も好きで、大衆的にもたくさんの方に知られていて、いまだに韓国の多くの方の記憶に残っているのが、1994年制作の「愛をあなたの胸に」という作品です。

また、影響を受けた俳優については、これは本当に個人的な考えになりますが、他人から何らかの影響を受けたという場合、必ずしもいい影響だけではないと思うんです。ですので、先輩であれ後輩であれ、若い頃から今までに至るまで、こんな失敗をしてはいけない、こういう人になってはいけない、そういう部分を見てきました。

いい意味であれ悪い意味であれ、30年以上ショービジネスの中に身を置いて、俳優としての自分を守る過程の中でそう考えるようになったのです。私がある作品に参加すると決めて、いざ参加することになったら、その責任はすべて自分にあると思っています。

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――韓国映画や映画界は世界的な躍進を遂げています。釜山映画祭はもちろん、アジアを代表するインディペンデント映画祭であり、クォンさんが審査員や司会を務めた全州(チョンジュ)映画祭もますます注目が高まっています。映画祭や全州の見どころを教えてください。

映画祭のすべての作品が上映される劇場が集まる大通りがあり、映画祭期間中に、その200メートルの空間の中で約10日間、映画を愛する人たちと一緒に過ごすというのが特別な経験になると思います。

韓国の昔の姿を見たいと思ったら、是非全州に行ってほしいですね。伝統的な韓国家屋の昔の町並みが残っている地域があるので、観光客も多いです。マッコリ通りもおすすめです。たくさんの美味しいおつまみも楽しめますよ。

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