劇場公開日 2024年9月6日

「シリーズファンの監督による、最大のファンサービス」エイリアン ロムルス 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0シリーズファンの監督による、最大のファンサービス

2024年9月8日
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鑑賞方法:映画館

【イントロダクション】
言わずと知れたSFホラーの金字塔『エイリアン』シリーズの最新作。シリーズの生みの親、巨匠リドリー・スコットを制作総指揮に据え、監督・脚本を本シリーズの大ファンにして『ドント・ブリーズ』の鬼才フェデ・アルバレスが務める。

監督がシリーズの大ファンを公言しているだけあって、随所に「分かってるなぁ〜」と感じさせる、同じくシリーズファンは思わずニヤリとしてしまうような演出が盛り沢山。しかし、決してマニア向けのニッチな作風には陥らず、本作でシリーズに初めて触れるファンにも優しい「一見さん大歓迎!」な作りになっている点が素晴らしい。

また、本作の時代設定は第1作『エイリアン』(79)の2122年から20年後の「2142年」を舞台としている為、第1作の制作時期である70年代後半〜80年代のSF作品の美術を拘って再現している。実際に宇宙ステーションのセットを組み、ミニチュアを製作、箱型モニターにキーボード、着ぐるみやアニマトロニクスまで用いた徹底ぶりには頭が下がる。

【ストーリー】
エレン・リプリーの奮闘によって宇宙空間に排出された“ゼノモーフ”は、自らを繭としてノストロモ号の破片と共に宇宙空間を漂っていた。“ウェイランド・ユタニ社”は、この休眠状態のゼノモーフを回収。謎に包まれた究極の生命体の研究を開始した。
一方、ウェイランド社が人類の存続と生存域拡大を目的として、宇宙の星々を植民地化する計画の一端を担うジャクソン星では、若い植民地者達が過酷な労働環境に苦しめられていた。彼らは作業中に偶然、宇宙空間を漂う「ロムルスとレムス」の神話に準えた2つのモジュールからなる謎の宇宙ステーション“ルネサンス号”を発見。ステーション内にあるであろう休眠ポッドを調達し、自分達の宇宙船で理想の惑星ユヴァーガへと脱出する計画を実行するーー。

主人公の小柄で内気な女性レイン、レインの弟にしてアンドロイドのアンディ、採掘場で働くグループのリーダー格タイラー、タイラーの妹ケイ、ひょうきん者でアンドロイド嫌いなビヨン、スキンヘッドが特徴的な女性パイロットのナヴァロ。各々が様々な理由で両親を失っており、過酷な環境から命懸けの脱出計画に乗り出すという導入は、物質や情報に満ちながらも何処か満たされず、追い詰められて生きている我々現代人にも通じる設定で非常に優秀。

【エイリアン】
・フェイスハガー
今回のフェイスハガーは、ウェイランド社が休眠状態のゼノモーフを研究して生み出した個体の為、お馴染みのエイリアンエッグからの誕生シーンは無く、袋に冷凍密閉された状態から復活を果たし、レイン達に襲いかかる。
また、視覚を持たない為に、獲物の立てた音や体温変化に敏感に反応して襲ってくるという習性も示された。これは、眼球を持たない後のチェストバスターやゼノモーフに至るまで共通の襲撃方法なのだと思われる。こうしたさり気ない情報開示も嬉しい。また、体温に反応するのを防ぐ為、室内の室温を人間の体温と同程度まで上昇させ、音を立てずに進み抜けるというアイデアは、流石『ドント・ブリーズ』の監督と言ったところ。

・チェストバスター→ゼノモーフ
これまで主に台詞や設定によって示されてきた「脱皮を繰り返して成体へと進化する」というチェストバスターの成長過程を、脱皮した皮の残骸から壁面の繭(蛹)へと目線を移し、それを破ってゼノモーフが誕生する様子を(少なくとも映画シリーズにおいては)初めて映像的に示してみせた点は、間違いなく本作の白眉だろう。ビヨンからの電気ショックによる攻撃にも耐え、寧ろ酸の血液で反撃し、風穴を空けて殺害。怯え慌てふためくケイの眼前で完全体となる一連のシーンの何と美しく絶望的な事か。

【シリーズの集大成感】
ファンにとって嬉しい要素としては、これまでのシリーズのありとあらゆる要素を内包している点も外せない。
・CGを駆使して『エイリアン』に登場したアンドロイドのアッシュ(故:イアン・ホルム)に酷似したルーク(ダニエル・ベッツ)を作り出し、しかも今回は一応は味方(少なくとも、初邂逅時は直ちに撤退するよう勧めていた)というスタンス。
・ステーションの研究員らを繁殖の苗床にする為に巣窟化させた通路と、そこに隠れ潜む無数のゼノモーフは、まるで『エイリアン2』(86)のウォーリアー。また、回収され研究対象にされたオリジナルのゼノモーフが宙に吊るされているシルエットは、クイーンエイリアンが初登場した瞬間を彷彿とさせる。
・レイン達の住むジャクソン星は、彼女らがまるで囚人のように扱われる様が『エイリアン3』(92)に通じるものがある。
・作中の時間経過と比較して明らかに成長速度の速い(特に、フェイスハガーの寄生からチェストバスター誕生まで)様子は、『エイリアンVS.プレデター』(04)にて、プレデター達が自分達の“成人の儀”を執り行う為に品種改良したものと重なる。
この他にも、構図や美術に至るまで、ありとあらゆる所にシリーズへの愛が溢れており、清々しいほどのオタクっぷり。

レインを演じたケイリー・スピーニーの熱演も素晴らしく、かつてシガニー・ウィーバーが演じたリプリーより更に小柄でか弱く見える彼女が、知恵と勇気を振り絞って幾度となく窮地を脱していく姿は非常に魅力的だった。
特に電磁弾が装填された自動小銃を構えてゼノモーフらに立ち向かっていく姿は、完全にかつてシガニー・ウィーバーが演じたリプリーと重なって見えた。おまけに彼女、宇宙ステーションの重力装置を利用した無重力空間でゼノモーフらの酸の血液を無効化して宇宙船に穴が空くのを防ぎ、宙を螺旋状に浮遊する血液の塊を火の輪くぐりかの如く移動し、危険な塊を銃の反動を利用して避けると抜群に頭がキレる。
後述するクライマックスでの“ヤツ”との死闘の際には、リプリーと同じく宇宙服に身を包む。分かってはいても、やはりあの瞬間はテンションが上がらずにはいられなかった。

【新種:オフスプリング】
ホラー映画にはいくつかの所謂“お約束”という物がある。その内の一つが『処女や妊婦は生き残る』というものだ。ケイが誰の子かも分からない子を妊娠したと示された瞬間は、このお約束が発動したとワクワクさせられ、同時に本作ではこのお約束を守るのか破るのかとハラハラもさせられた。

そして、本作は決して弱者に容赦はしなかった。ケイはゼノモーフから襲撃を受け、その際に負った傷による失血死から自らとお腹の子の命を守る為、ウェイランド社の研究によって生み出された“黒い液体”を注射してしまう。やがて、事前に示されていた実験マウスの異常進化が示した通り、人間とエイリアンの混合生物である通称“オフスプリング”が誕生する。ケイの様子を確認しに来たアンディの背後に、急成長したオフスプリングが出現するあの恐怖と、人間によく似た顔立ちをしながら一切の感情が読み取れない不気味さに対する生理的嫌悪感は、本作随一のホラー演出であったのは間違いない。…と同時に、私の中に酷い落胆も生まれた。

早い話、「俺、“ニューボーン”嫌いなんだよぉぉぉぉー!!」である(ニューボーンとは、『エイリアン4』(97)にて登場した、リプリーの遺伝子を受け継ぎ、人間と同じく子宮からの出産を可能にしたクイーンエイリアンから誕生した乳白色のボディを持つ新個体である)。
おまけに、このオフスプリング、自らの生みの親であるケイをゼノモーフよろしく第二の顎もどきの舌で体液を啜って殺害したのである。これには流石に、「マァ、この子ったら!!親に手を上げる所まであの子(ニューボーン)そっくりザマス!!」と感じざるを得なかった。

いや、分かってはいる。オフスプリングの見た目が『プロメテウス』(12)で登場した人類の創造主である“エンジニア”の姿を模している事は。しかし、クライマックスで隠し球として登場するのがあの姿では、些か素直に受け入れ難い。もっと言ってしまえば、オフスプリングの登場によるインパクトによって、これまで恐怖を盛り上げてきたゼノモーフやフェイスハガーら、オリジナルのクリーチャー達が完全に前座扱いになってしまった。

因みに、この“黒い液体”は、『プロメテウス』にて初登場した物質で、エンジニアが用いたもの。実は、この黒い液体を巡っては、『プロメテウス』の脚本段階では詳細な設定が書かれていたが、「作品の本質に触れすぎるから」という理由でスタジオ側が撮影段階で削除させたという経緯がある。それを知っているか否かで、本作における黒い液体の扱いと、それに対する感想にも若干の違いが生じるので、ここで大雑把に解説する。

この黒い液体。元々は、エンジニア達の神“ディーコン”(姿はエイリアンに酷似している)の血液であり、生命を再誕させるという性質を持っている。しかし、エンジニア達は自分達がこのディーコンの血を用いて誕生させた人類が、長い歴史の中で絶えず争いを繰り返す姿に失望し、自分達が研究して作り出したディーコンの血の複製品“ブラックグー”を用いる事で、人類を進化させようとした。しかし、このブラックグー、ディーコンの血が司る生命の誕生とは真逆の存在で、生物を凶暴化させるというトンデモ迷惑な欠陥品なのである。

そんなブラックグーを再現した本作の合成物質“Z-01”もまた、もれなく惨劇を招いてくれた。この、人類の創造主たるエンジニアと同じ過ちを繰り返すという構図が何とも皮肉。

話をオフスプリングに戻すが、本作オリジナルのラスボスを登場させる事自体が悪い事だとは思わない。シリーズに新しい風を通すのは、新作を作る最大の意義となるだろう。しかし、ならばオフスプリングの見た目は、時間経過と共に更に変化・進化させていっても良かった気がする。
事前にマウスの実験映像で予想外の進化とその成れの果てとなった異形の存在の姿が示されていただけに、オフスプリングのヒダ状の後頭部やゼノモーフの背中の管を連想させる特徴的な背中には、いつ後頭部が迫り出すか、いつ背中の管が伸びるかと期待させられもしたのだが…。

多少マニアックな話になるが、ゼノモーフら成体エイリアンの頭蓋骨には眼窩がある。ならば、オフスプリングもレインやアンディを襲う中で、視覚情報に頼った襲撃では獲物を逃し続けるばかりだと判断し、眼球を排出(もしくは収縮)させ、頭部を透明フードのように丸みを帯びた形へと変貌させ、よりエイリアンとしての側面を強化していった方が面白くなったのではないかと思う。
肌の色も次第に実験マウスの成れの果てのような青味がかった黒い肌へと変貌するのも面白かったと思うし、前述した後頭部や背中の変化も「早く食い止めなければゼノモーフ以上の脅威になる!」という緊張感を演出するのに効果的になったはずだ。

《ゼノモーフの遺伝子と人間の遺伝子を共存させ、人類の進化を促そうとしたが、より種として強い侵蝕性を示したゼノモーフの遺伝子が、やがては人間の遺伝子を完全に上書きする。一つの種としての完成形こそがゼノモーフらエイリアンの姿なのだ》と、進化の方向性を帰結させた方が、エイリアンという神秘的な存在の特別感、脅威感を改めて効果的に示せたと思うのだ。

【終わりに】
さて、そんな過去作の良いも悪いも網羅し、シリーズの一つの集大成とも言える役割を担った本作。しかし、意地悪な言い方をしてしまえば、それは単に「シリーズのあらゆる要素を内包した作品」に過ぎず、言ってしまえば、本作は『スター・ウォーズEP7/フォースの覚醒』(15)のようなもの。本当の勝負となるのはこの先。新シリーズにおける「2」になるだろう。
かつて、リドリー・スコットからバトンを渡されたジェームズ・キャメロンが、本シリーズにアクション要素、クイーンエイリアンという最高のラスボス(推し!)を追加して、作品の世界観を広げシリーズの人気を不動のものとしたように、次回作では推しの登場含め更なる広がりを大いに期待したい。

フェデ・アルバレス監督、出来れば次回作以降も是非よろしくお願いしますッ!!

緋里阿 純