「そこに暮らす人々の奥底にある感情を淡々と引き出している。とても好印象の映画。」リッチランド M.Joeさんの映画レビュー(感想・評価)
そこに暮らす人々の奥底にある感情を淡々と引き出している。とても好印象の映画。
最終日にやっと行けた。一緒に行ったお二人もとてもいいと評価。両面性のある住民の意見や歴史について丁寧なインタビューと音楽、詩、アートで、普通に人々の言葉を繋いでいく。押し付けがましくもなく、その奥底にある感情を淡々と引き出している。女性のアイリーン・ルスティック監督・製作・編集。
★長崎に落とされた「ファットマン」のプルトニウムはハンフォード・サイトで精製されたもので、そこで働く人・家族のために作られた町がリッチランド。
リッチランド高校の壁に描かれている大文字の「R」から噴き出すキノコ雲、高校のフットボールチーム「リッチランド·ボマーズ」や、町中にあるatomicの名前を使ったいろんな看板、Tシャツなどは、このまちを誇りに思っていることを象徴している。
だが、リッチランド高校の学生たちが自由にキノコ雲や町の歴史について語りあるシーンは、若い自分たちが何か変えられるのではと思う反面、何も変わらないと思うなどのやり取りがあり、とても印象的だった。
★リッチランドはもともと先住民の土地だった。その先住民の嘆き悲しむ声。除染作業に従事する人々。快適な町だが、川の魚は食べないと語る人。放射能汚染被害者への僅かな補償、そもそもそれは問わないという取り決め。当初の劣悪な仕事環境。「亡くなる直前、『信じる相手を間違えた』と父は言っていた」と父親の被害を語る女性。多くの幼児が眠る墓所。音楽も合唱曲やギターデュエットなどでその思いを表現。
★ポスターとなっているインスタレーションは、広島の被爆3世であるアーティスト·川野ゆきよが、リッチランドを訪れ、祖母の着物をほどいた布を、自らの髪で縫い上げ、長崎に落とされた「ファットマン」の造形を実物大の大きさで形作ったもの。