「『オッペンハイマー』が描き切れなかったものが描かれている」リッチランド 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
『オッペンハイマー』が描き切れなかったものが描かれている
原爆開発のために作った町の今を追うドキュメンタリーという、日本にとっては他人事ではない作品だ。この町の繁栄は、核兵器開発によるもので、人々はそれを誇りに思っている。高校の校章はキノコ雲だし、町にはいたるところに原爆にちなんだショップ名を冠した店がある。しかし、人は放射能汚染を恐れてもいる。事実、多くの人が健康被害にあっている。そして、映画は土地を奪われた先住民にもスポットを当てる。先祖から受け継いだ土地を奪われたあげくに、ほとんど永遠に清浄化できないほどに放射能汚染されてしまった。
ノーランの『オッペンハイマー』が描くことをしなかった側面が数多く取り上げられている。広島の被曝サバイバー3世のアーティスト川野さんのアートが映画のラストに出てくるが、非常に力強いイメージを映像に与えていた。多方面に思慮深く作られており、日本人にとって観る価値ある内容だ。アメリカというもう一方の原爆当事者の表と裏を見られるという点で、非常に貴重な作品だと思う。快不快を超えて、きちんと他者を知るために、この作品は広く見られるべきだ。
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