「ガイ・リッチー監督らしい痛快スパイアクション!」アンジェントルメン 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
ガイ・リッチー監督らしい痛快スパイアクション!
【イントロダクション】
史実を基に、ジェームズ・ボンド(『007』)の元ネタと言われている実在したイギリス軍人、ガス・マーチ=フィリップス少佐率いる“無許可・無認可・非公式”な型破りチームによる極秘作戦を描く。
ガス少佐役に『マン・オブ・スティール』(2013)のヘンリー・カヴィル。プロデューサーに、『トップガン』シリーズ、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ等、ハリウッドの大ヒットメーカー、ジェリー・ブラッカイマー。監督・脚本には『スナッチ』(2000)、『シャーロック・ホームズ』シリーズ、『アラジン』(2019)のガイ・リッチー。その他脚本に、ポール・タマシー、エリック・ジョンソン、アラッシュ・アメル。
【ストーリー】
第二次世界大戦中の1942年。ナチス・ドイツの侵攻によりヨーロッパ諸国が次々と陥落、イギリスも窮地に立たされていた。アメリカの参戦を促したいイギリスのチャーチル首相だが、ドイツ軍の潜水艦Uボートの存在が脅威となり、アメリカの参戦を困難なものにしていた。
そこで、チャーチル首相は“無許可・無認可・非公式”な特殊作戦を立案。チャーチルの命を受け、ガビンズ准将(ケイリー・エルヴィス)は部下のイアン・フレミング(フレディ・フォックス)と共に、投獄中だったガス少佐を召喚。彼にUボートを無力化させる特殊作戦と、その実行部隊の結成を命じる。
ガス少佐は、怪力男のアンダース・ラッセン(アラン・リッチマン)、航海士のヘンリー・ヘイズ(ヒーロー・ファインズ・ティフィン)、潜水工作員のフレディ・アルバレス(ヘンリー・ゴールディング)を招集。更に、ラ・パルマ島でナチスに拘束されていたジェフリー・アップルヤード(アレックス・ペティファー)を救出。
時を同じくして、諜報員リチャード・ヘロン(バブス・オルサンモクン)と女優のマージョリー・スチュワート(エイザ・ゴンザレス)は、列車で移動中のドイツ軍から機密情報が入った鞄を盗み出し、フェルナンド・ポー島のイタリア船籍ドゥケッサ号が、15日後にUボートへ物資を補給する情報を入手。先に島に向かった2人はそれぞれ、裏カジノ経営者と金トレーダーに扮し、冷酷で残忍なナチス幹部のハインリッヒ・ルアー大佐(ティル・ジュヴァイガー)と接触。来たる日への準備を進める。
メンバーを揃えたガス少佐一行は、ドゥケッサ号を沈没させる為、フェルナンド・ポー島へ向かう。英国軍に見つかれば投獄、ナチスに捕まれば拷問と死。タイムリミットが迫る中、決死の秘密作戦を開始した。
【感想】
ガイ・リッチー監督らしい軽快で娯楽性の高いアクションに仕上がっている。70年代作品らしい雰囲気も個人的に◎。後半に掛けてややパワーダウンしてしまった印象は強いが、作戦に参加するメンバーが皆個性的で面白い。
特に、前半の山場であるラ・パルマ島でのアップルヤード救出作戦は、個々のキャラクターがそれぞれの能力を活かして活躍する展開と、そのテンポの良さは抜群で、間違いなく本作の白眉。戦闘が昼間な事もあり、何が起きているかも分かりやすかった。
作戦に参加するメンバーが、どれも個性派の曲者揃いなのも良い。
特にお気に入りなのが、アンダース・ラッセン。通称「デンマークの怪力男」と呼ばれ、ヘラジカ狩りや熊とのレスリングで育ったという野生児。弓とナイフの名手で、度々登場する矢を放つシーンの絵力と精度の高さには痺れる。演じたアラン・リッチソンのハンサムな顔立ちと筋骨隆々とした体作りもあって、彼単独の作品が観たくなってしまうほど魅力的なキャラクターに仕上がっていた。
ラ・パルマ島で相手の心臓を抜き出す姿や、斧を手に警報が鳴り響く船室内で真っ赤なライトに照らされ、ドイツ兵を次々と葬り返り血を浴びるシーンは、まるでスプラッター・ホラーかのようで最高だった。
紅一点のマージョリーも素晴らしく、野郎ばかりの作戦下抜群の存在感を放っていた。銃の腕前を披露するシーンの頼もしさと、手榴弾を手にしようとするコミカルさも印象的。演じたエイザ・ゴンザレスの、ハインリッヒを前に駆け引きする姿、彼の残忍さに怯えながらタバコを吸う演技も良かった。
ただ、射撃の名手という設定の彼女の作中唯一の実戦射撃が、クライマックスのハインリッヒ射殺以外なかったのは勿体なく感じた。あれならば、殊更に射撃精度の高さを描写する必要はなく、単キャンプ・ビリーが撃ち損じ続けていた酒瓶を一撃で割る=一撃で必ず仕留めるという演出にした方が、よりクールだったのではないだろうか?
奇襲作戦の為仕方ない部分はあるが、フェルナンド・ポー島でのドゥケッサ号強奪のシークエンスは、暗闇や船上という状況下から、派手さを演出しづらかったのか、前半ほどの盛り上がりを見せなかったのが残念だった。
ラスト、刑務所に収監されていたガス少佐ら作戦メンバーを訪問しにきたチャーチル首相が、「君たちは私の下におく」と、彼らを秘密作戦組織として迎え入れ、豪勢な食事と酒を振る舞う。
出来れば、このラストはもっと打ち上げ感のある華々しいラストの方が良かったように思う。ましてや、本作はアクションコメディのノリだっただけに、皆で食事を囲み、酒で乾杯するラストの方が“らしい”感じがしたと思うのだが。
【総評】
事実を基にしつつ、ガイ・リッチー監督らしい外連味溢れるスパイアクションに仕上がっており、特に前半部の盛り上がりは素晴らしかった。『007』の原作者であるイアン・フレミングが登場するという演出もニクい。
味方側に死者が出ない(負傷者は出たが)という点も、爽快感がある。
一方で、メインとなるフェルナンド・ポー島での作戦は、演出や盛り上がりにもう一工夫欲しかった。