「ミステリー&サスペンス作品」夏目アラタの結婚 ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)
ミステリー&サスペンス作品
ミステリーは謎解きをメインに展開する作品、サスペンスは心理的恐怖をメインに展開する作品のことらしい。本作はミステリーの要素が含まれるサスペンス作品といえるだろう。
死刑囚・品川真珠の会うたびに変わる言動に夏目アラタは翻弄されていた。DNA鑑定で真珠と父親の間に血縁関係がないことが明らかになった後、真珠の発言を不審に思ったアラタは、真珠の母親の墓を掘り返した。そこには生後5ヶ月の赤ん坊の遺体と品川真珠と記されたへその緒を入れた箱があった。この赤ん坊が本物の品川真珠だった。直後に妊娠した赤ん坊が偽物の品川真珠として育てられたのだ。真珠は母親からネグレクトを受けた。高カロリーな食事は発育の遅れを肥満で誤魔化すため、歌声が変わると言って歯の治療を受けさせなかったのは乳歯から永久歯への移行具合で戸籍上の年齢との誤差が明らかになってしまうからであった。
歯の治療記録というものは遺体の身元証明で用いられるほど重要なものであり、歯の治療を受けた人物は犯罪の有無を問わず身体的な個人情報が登録されている。そのため、虫歯ができても品川真珠が偽物の品川真珠だと悟られないようにするために歯医者を受診させるわけにはいかなかった。
真珠はアラタから「お前は人を殺した」と言われて喜んだが、可哀そうな目で見られるとブチ切れた。ネグレクトされた子供の微妙な心理が浮かび上がっている。
真珠はついに真相を明かす。「私は3人の男を毒物の注射で殺したが、それは人生を開放してあげるためだった。一見すると社会的に成功している男性は人生に疲れ切っており、その男性たちを救うために殺害した。」義理の父親は、戸籍上存在しない自分の存在を否定されたため慈悲を持たずに怒りで殺害したという。
真珠は3件の自殺ほう助と1件の殺人、4件の死体遺棄の罪で起訴され、懲役13年の判決が下された。
ミステリーの謎解きができると心理的恐怖はおさまってくるが、この事件の背景に暗澹たる思いがなくなることはない。