「難民国として、国際社会に復帰することの意味は、想像以上に大きなものだった」ボストン1947 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
難民国として、国際社会に復帰することの意味は、想像以上に大きなものだった
2024.9.5 字幕 イオンシネマ京都桂川
2023年の韓国映画(108分、G)
戦後の混乱期に国際大会に出場しようと奮闘した朝鮮マラソンチームを描いたスポーツ映画
監督はカン・ジェギュ
脚本はカン・ジェギュ&イ・ジョンファ
原題は『1947 보스톤』で「1947年、ボストン」、英題は『Road to Boston』で「ボストンへの道」という意味
物語は、1936年のベルリンオリンピックにて、日本人名・孫起貞として優勝したソン・ギジョン(ハ・ジョンウ)が描かれて始まる
彼は「日本人代表として走ったこと」をスピーチで強要され、日章旗を月桂樹で隠したことなどを理由に、マラソン界から追放されることになった
それから10年後、戦争が終わって日本の統治は終了したものの、今度は米ソによる管理体制に入る
ギジョンの功績はレース名を冠するまでになり、そのレースも10周年を迎えることになった
だが、ギジョンは酒を浴びて表彰式に遅れて来るなど、自堕落な生活をくり返していた
ベルリンの盟友・ナム・スンニョン(ぺ・ソンウ)は呆れるものの、再び二人で世界の舞台を目指したいと考えていた
スンニョンは高麗大学のマラソンチームの監督をしていて、そこには貧乏な出身ながらも短縮マラソン(20km)で優秀な成績を叩き出したソ・ユンボク(イム・シウン、幼少期:キム・ジョンチョル)もいた
ユンボクはギジョンに憧れてマラソンを始めていたが、自堕落な彼を見て落胆し、能力の高さから高慢な態度を取り続けていた
映画は、スンニョンがボストンマラソンへの参加を考え、ギジョンを誘う所から動き出す
大会への参加を在韓米庁に打診するものの、担当者のスメドレー(モーガン・ブラッドリー)は「朝鮮は難民国のために、アメリカに入国するためには保証金900万ウォンと在米の保証人が必要だ」と言う
それは本国の決定であり、在韓米軍のホッジ将軍(ロン・ケリー)の発言一つで可能だったが、彼は大会への参加には否定的な立場だった
そこでスンニョンは「ギジョンからプレゼントされた靴で優勝したジョン・ケリー(ジェシー・マーシャル)の記事」を見つけ、彼に手紙を書くことを考える
渋々、ジョンへの手紙を書くことになったギジョン
だが、その返事には「招待はOKだが、ギジョンが監督になること」が条件になっていた
そして、スンニョンは出場のために監督を降り、ギジョンが就任することになった
映画は史実ベースに脚色を加えている作品だが、かなり綿密に再現されていた
難民国認定からの入国の難しさ、在米朝鮮人のペク・ナムヒョン(キム・サンホ)がこぼす「何もしてくれない祖国」という言葉も辛辣なものとなっている
だが、そんな祖国だとしても、ギジョンは太極旗を胸に走る意味を強く感じていて、ボストンマラソン財団の公式会見では自説を語り、その大切さを訴える
その言葉は記者団の心を掴み、運営側は星条旗を外して、太極旗にて走ることを許可するのである
スポ根映画としての成長過程、ユンボクの周囲で起こるドラマなどもサラッとしていて濃密
コメディ要素もユーモアがあって暗くなりそうなシークエンスでも弛緩作用が効いていた
レースシーンも迫力があり、最初から最後まで集中力を切らすことなく鑑賞できるのは良かったと思う
若干のロマンス要素もあって物語に華もあるし、瞬間湯沸かし器のようなギジョンの葛藤もしっかりと描かれていたと思う
公式記録を今更変えることは難しいと思うが、記憶だけは語り継がれて行ってほしいと素直に思えた
いずれにせよ、事前に必要な知識はないが、日韓併合、戦後の過渡期の歴史の流れを知っていないと、なんで米軍?と思ってしまうかもしれない
このあたりは基礎教養の部分で、若干耳の痛い話も出てくるが、これは朝鮮サイドの意識と感覚で描かれているので当然のことだと思う
史実映画としても発見があるし、スポーツ映画としても見応えがあるので、気になっている人は事前情報(レースの結果など)なしで鑑賞しても良いのではないだろうか