劇場公開日 2024年9月6日

「「ダルい」ということ」ナミビアの砂漠 BDさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0「ダルい」ということ

2024年9月7日
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鑑賞方法:映画館

知的

難しい

非常に、非常に作家性に溢れた作品。エンタメという側面では、河合優実の良さと各カットの迫力や独創性に重点が置かれているが故に、観客にとってリズムを生みやすいプロットの動きが欠けているという構図で、実際近くの席の何人かの方は退屈したのか途中で退室していました笑。誰もが明快に楽しめる映画ではないと言うのは一つ留意すべきところ。そこを前提に、この映画が何を語ろうとしていたんだろう?と言うのを自分なりに推測してみます。

やる気なく仕事に臨み、気怠く煙草を吸い、酒を飲み、男を乗り換え、そのクセ今彼の家族とのデイキャン前には「ちゃんとしてないって見られたくない」と妙に真っ当なことを言い出すカナ。彼女の表情でとても印象的なのは「ダルそう」な顔。薄い共感、決めつけ、ホストの呼び込み。それに限らず、カナは基本的に自分の周りで起こるあらゆることに「ダルい」リアクションを取っているように見えました。

安易な推測かもしれませんが、もしもこの映画が、一言で括れば現代の生きづらさを描くものなのであれば、「ダルい」と言う言葉が表しているのかなと思います。「ダル絡み」とか、「ダルい奴」って表現、新しい言葉では決してないのですが、現代的な表現なのかもな、って思う時がよくあります。SNS、メディア、会社、友達、家族etc...色んな人が色んなことを言っており、「まぁ別にいいんだけど」という、強烈な感情ではないけれど生ぬるい不快感がある。それに対して少なくとも外向きは相手を不快にさせないような言動をしなければいけない。その積み重ねで、病名がつくことになってしまった話のように思えました。

(病名といっても、今の時代「なんだか不安定だけど人間の浮き沈みの中では普通にある状態」と「病名がつく深刻な状態」との間はそんなに離れていないように思います。私の知り合い周りを見ていても、あー病気にかかってたの?ってケースは多いです。そして、少し社会生活を離れたとしても、特に重くない場合はやがて普通に戻ってくる。そういうものが当たり前に存在するのがある意味現代なのかもしれません)

カナは、仕事もしてないんだから診断書なんて必要ないでしょ、という担当医に対して「私は私のことをちゃんと知りたい」と言います。サラッと流されていましたが、この映画で私がとても意味性を感じた言葉でした。

これはいいの?悪いの?私って今どんな感じ?という、内省的な問いの意味のなさと、それに対するフラストレーションを感じたような気がします。全ては「いや現実問題こうするしかないじゃん」という表の合理性、「まぁホストでも行ってパーっとやろうや」という裏の欲望に収斂される。その二律乖離が激しい世の中なんじゃないかな、って少し思います。世の中的に「やっちゃいけないこと」が増える一方で、人間の欲望の捌け口ってぜんぜん減ってないように思えますし。

なんだか名前をつけづらいけど、それでもなんだか気に入らない。ふざけんなよ!という思いは心の中に沸々とずっと残っている。それが、カナにおいては暴力として表出したのかなと。

そして役者論としては、そんな既存のプロットに当てはまらない役柄を演じ切る河合優実の力量たるや!という話につきます。不安定なんだけど、何らかの誠実さも確かに感じられ、そして可愛げがある。こんなに可愛く狂っていく人いませんよね笑 見応え、迫力、十分に感じました。

とはいえ、冒頭にも言いましたが、やはり受け手を選ぶ作品であることは確かなのかなと。こんな意味ありげな書き方をしてしまいましたが「わからん」「つまらん」「意味不明」で切り捨てちゃってもいいような。なんだかよく分からないものを言語化する映画体験を求める人は一見の価値ありかな。スッキリとした読後感で「ここがよかったね」を語りたい人には全然おすすめできないです笑。前者に該当する人は見てみてください。

BD
BDさんのコメント
2024年9月12日

>>Mさん
共感、コメントありがとうございます。
やたら杓子定規な医者との対比もあって、印象深かったです。対話の断絶というか。

BD
Mさんのコメント
2024年9月12日

「私は私のことをちゃんと知りたい」確かに、とても心に残る言葉でしたね。

M
BDさんのコメント
2024年9月11日

>>にのんさん

コメントありがとうございます!
確かにだいぶ不安定な画角の動きでしたね。その辺含めて良くも悪くも「いろんなことやりたい」という欲望を感じました。若さか…笑

BD
にのんさんのコメント
2024年9月11日

途中退席された方は、画面酔いされた可能性もあると思います。個人的には最後まで緊張感が途切れず作品に没入出来ましたが、ブレブレのカメラの動きに、途中から気分が悪くなったことも事実です。

にのん
BDさんのコメント
2024年9月8日

>トミーさん
共感、コメントありがとうございます!
そうですね、人間性としては至ってダメな子というか笑
ダメにはダメの事情があるから暖かくやろうよ、みたいな教条ではなく、この子はダメな子です、っていうことはしっかり描かれていたのは良かったと思いますね。

BD
トミーさんのコメント
2024年9月8日

共感ありがとうございます。
でも、もう何もしない、仕事もしないは違う気がしました。家庭の為でなく、自分の為に働けよ! 喫煙で辞めよかなぁの後輩より先になったのは皮肉ですね。

トミー