「未来予想のアメリカ東西戦争をリアルに描くも、映画的帰結に曖昧さが残る」シビル・ウォー アメリカ最後の日 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
未来予想のアメリカ東西戦争をリアルに描くも、映画的帰結に曖昧さが残る
南北戦争(tha Civil War/American Civil War1861年~1865年)以来の国家を二分する大規模な内戦に陥ったアメリカ合衆国の近未来を想定した戦争アクション映画。主人公は女性報道カメラマンとして活躍するリー・スミスで、記者のジョエルと恩師サミーと共にニューヨークから大統領取材目的で首都ワシントンD.C.に車で向かいます。そこにリーに憧れる新人写真家ジェシーが加わり、彼らが悲惨で危険な戦場や無政府状態の国土を辿るロードムービーにもなっています。戦争の発端は、独裁者の大統領が憲法を反故にして3期目に就任しFBIを解散させたこと。これに怒り独立したテキサス・カリフォルニア連合WF(Western Forces)がフロリダ同盟と手を結び、政府軍と激しい攻防戦を重ね、最後は敵連邦政府が殲滅するまで死闘するという、斬新奇抜で刺激的な作品でした。それで監督と脚本兼ねたアレックス・バーランドと撮影と音楽までの主要スタッフがイギリス人で占められている。流石に政治的な隠喩を連想してしまう内容だけに、アメリカ人の制作では難しかったかと想像します。主要キャストはアメリカ人の他に、ブラジル人、日系イギリス人、台湾系カナダ人と多様でした。
映画的な迫力と衝撃度の点で、前半の凡庸さと後半の緊迫感の差が大きいことが挙げられます。先ず内戦状態の敵味方分からない不安感が一気に増す中盤、彼らの知り合いであるアジア系ジャーナリストと偶然出会い、謎の兵士に捕まり危機に瀕するシークエンスが、実に怖い。お道化たユーモアからカーアクションのスリル、そして兵士に脅される戦慄の息詰まるタッチと、ここのバーランド監督の演出には一目置かざるを得ませんでした。その後の夜の山火事の中を車が走る異次元的で幻想的な美しさのあるシーンが素晴らしい。そして一機のヘリコプターが道案内するかのような朝焼けシーンからシャーロッツビルWF前線基地に辿り着く映画的な流れもいい。
それでもこの映画の見所は、夜の首都ワシントンD.C.で繰り広げられる激しい市街戦のクライマックスでしょう。光るワシントン記念塔を見せ、その前にあるリンカーン記念堂の攻防から、ホワイトハウスに突撃するまでの映像の迫力は、正にアメリカ映画の力量を見せ付けます。装甲車や攻撃ヘリコプターの活躍に続く、逃走する大統領専用車のアクション。遂にラスボスの大統領を捕まえるまでの銃撃戦と、息つく暇もなく圧倒されました。
このアクションシーンの見応えに対して、主人公リー・スミスの最期は、ジェシーの身代わりになる映画的な帰結に収めた作為を感じます。リアルを追求する表現に対して、彼女の思いが描き切れていない不満が残りました。折角キルスティン・ダンストが良い演技を見せているだけに、主人公としてもっと大事に扱って欲しいと思いました。ジョエル役のヴァグネル・モウラ、ジェシー役のケイリー・スピーニーもそのバックグラウンド含め人物の深みに物足りなさが残ります。それと巨漢の老体であるサミーが最後までいるとなると、動きの鈍さで不自然になり、それで脚本上途中で消したのではないかと思えてしまいます。現場の臨場感が写真の価値とは言え、命を賭けた兵士の邪魔にもなるジャーナリストの使命とは何かまで考えると、この脚本自体の強引さも指摘せざるを得ません。また象徴的なラストカットは、アメリカの観客がどう観たのかも気になるほど、西部劇に出てくる写真のように見えて、不謹慎ながら少し可笑しかった印象を持ちました。
昨年の大統領選挙で明らかになったアメリカの政治的分断を思い起こす野心的で、警告的なアメリカ映画でした。
Gustavさん
コメントへの返信を頂き有難うございます。
戦場での駆け引きではなく、ジャーナリスト視点に重きを置いて描かれていましたね。
分断故の葛藤、苦悩や経緯、どう終結したかを描いた作品を期待していました。