「保守とリベラルが手を組んだら国が壊滅しちゃった」シビル・ウォー アメリカ最後の日 おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)
保守とリベラルが手を組んだら国が壊滅しちゃった
2021年にアメリカで起きたトランプ支持者による議事堂襲撃事件、その規模を大きくしたような話。
「共和党大好き」テキサス州と「民主党大好き」カリフォルニア州が手を組み、ワシントンD.C.制圧を目指す。
「そんなわけあるかい」とつっこまずにはいられない面白い設定ではあるが、この映画が「思想の対立」を描く気が全く無いことの宣言にも思えた。
戦争を描く場合、「国を攻撃する側」か「国を防衛する側」のどちらかの視点(または両方の視点)で描かれていくのが普通だと思うけど、この映画は「戦場カメラマン」からの視点で話が進んでいくのが独創的。
兵隊に同行して戦闘の中に入り込んではいくが、何が起きても場面には関与せず、惨状をカメラで記録していくだけ。
この作りのおかげで、映画を観ているだけなのに、まるで銃撃戦の中に放り込まれたような臨場感。
鑑賞中はずっと張り詰めた緊張感が漂っていて、途中から軽い身震いが止まらなかった。
凄い映画体験だった。
内戦によって秩序が崩壊したアメリカ各地を転々と旅していく感じは、TVゲームの『The Last of Us』っぽいと思った。
無理矢理訳せば『アメリカ最後の日』。
副題をつけた人も同じことを思ったのかな?と勝手に妄想。
ゾンビが出てこない『The Last of Us』。
主人公は銃では戦わず、写真を撮るだけではあるが。
映像が凝りまくっていた印象。
人物の配置の仕方など、全ての場面において画面の構成がよく練られていて、どの場面で画面を静止しても報道写真として通用しそう。
さすが『エクス・マキナ』の監督。
美術センスゼロの人間が思ったことなので、もしかしたら気のせいかもしれないが…
音楽演出も独特。
人々の怒りが頂点に達して暴動が起こってしまっている場面でノリノリなヒップホップ、悲劇が起きてみんなが絶望的な気分に落ち込んでいる時に穏やかなカントリー音楽。
その場の雰囲気に微妙にそぐわない選曲の数々。
この表現で合っているのかわからないが、目を血走らせて必死になっている人間たちを、ちょっと小馬鹿にしているような音楽の使い方に感じた。
「人間同士の争いってマジでくだらねー」という監督からのメッセージ。
そんな気がした。
音楽知識ゼロの人間が思ったことなので、もしかしたら気のせいかもしれないが…
中盤発生する、衝撃的な人種差別展開。
個人的には関東大震災朝鮮人虐殺事件のことを考えてしまった。
社会の混乱に乗じて、力を持つ者がヘイトを向けていた社会的弱者を排除していく社会。
移民や難民に対して陰湿な活動をしているレイシストが実在する今の日本で、もし社会の情勢が不安定になる出来事が起きた時、どんな恐ろしいことになるのやら…
この映画最大の見せ場は、ホワイトハウス攻城戦。
『コール オブ デューティ』みたいな、戦争が題材のTVゲームで見たことあるやつが、そのまま再現されていて度肝抜かれた。
A24史上最大の予算も納得のド迫力。
新米カメラマンだったジェシーが兵隊の列に混じって戦場に突き進んでいく姿を見て、一人前の戦場カメラマンに成長したことを喜びつつも、狂人にも見えて少し怖くもなった。
活気盛んな若者が猪突猛進した結果ピンチを迎え、それを年長者が体を張って尻拭い、みたいな展開が多かった気がする。
そもそも映画全体が「若者中心の武装した市民が、高齢者中心の国家権力を倒そうとする話」であることを考えると、この映画は「新陳代謝」についての映画のように感じた。
戦争によって「新陳代謝」が起こると考えれば、自然の摂理としてはそれは当然のことなのかもしれない、と映画を観て思った。
だからって人を殺して良いわけ無いが…