「予定調和を排した秀作」シビル・ウォー アメリカ最後の日 ココヤシさんの映画レビュー(感想・評価)
予定調和を排した秀作
アメリカが政府勢力と西部連邦とフロリダ連合と中立州に四分五裂した近未来、ニュー・ヨークで高名な戦場写真家リー・スミス(キルステン・キャロライン・ダンスト)はロイター通信記者ジョエル(ワグネル・モウラ)とともに、ワシントンに潜入して大統領(ニック・オファーマン)に単独インタヴューすることを企てる。連続三期を務めて独裁化した大統領は、しばらくメディアの取材を受けたことがなかった。そこに老ジャーナリストのサミー(スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン)とリーに憧れる駆け出し写真家ジェシー・カレン(ケイリー・スピーニー)が加わって、ワシントンへの自動車の旅が始まる。一行は激しい戦闘や捕虜処刑、自警団による人種差別的な大量虐殺などの地獄絵図を目の当たりにする。一方で戦線の後方では内戦に無関心な市民が異様に平穏な生活を送っていたりもする。ジェシーの軽率な行動の結果、サミーは死亡。さしものリーやジョエルもショックを受けるが、反対にジェシーは戦場写真家として躍動しはじめて――といったストーリー。
クライマックスで、西部連邦軍がホワイト・ハウスを包囲するなか、数台のリムジンが走り出してきて、西部連邦軍や他のジャーナリストは一斉にそちらに注意を向ける。だが、大統領がまだ官邸に留まっていると直感したリーは、ジョエルやジェシーを連れて突入。スクープにはやって跳びだしたジェシーがシークレット・サーヴィスに撃たれそうになったとき、ジャーナリストの使命を忘れたリーは、ジェシーを突き飛ばして命を救うが、かわりに自分が撃たれてしまう。ところがジェシーは命の恩人を救護するどころか、大統領の最後の瞬間を写真に収めるために駆け出していく。オーヴァル・ルームで西部連邦軍兵士たちが大統領を銃殺する直前、ジョエルは「最後に一言ないか?」と訊くが、大統領の答えは凡庸な「私を殺させるな」だった。ジョエルが「もういい」と言って大統領は処刑され、ジェシーは世紀のスクープをものにする。
本作はハリウッド的な予定調和を排して、国家分断の危機や、権力者やジャーナリズムの実態を非情に描いている。受け取り方によっては反米的な映画だが、米軍が撮影に協力しているようで、アメリカの懐の深さを感じさせる。