「面白いです!フィクションを創り出す圧倒的な力を感じます。」シビル・ウォー アメリカ最後の日 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
面白いです!フィクションを創り出す圧倒的な力を感じます。
平日、朝9時からの劇場鑑賞。1〜2割程度の入りで中高年男性が一人で来ているのがほとんど。アーミールックの人もいたりして軍事マニアか戦争映画ファンなのでしょうね。
ところが映画は、後半残り45分ぐらいまで、戦場記者たちの道行きが割と淡々と描かれる。もちろん戦闘シーンもあるのだけど、何やら「マリウポリの20日間」のようなドキュメンタリー風。
でも安心してください。ニューヨークから出発した彼等が最前線のシャーロッツビルに到達する直前、というよりは赤いサングラスの男(ジェシー・プレモンスなんですね。いや嬉しい。)に遭遇したところから一気に筋運びのスピードが上がります。「地獄の黙示録」のようにヘリが勇壮に飛び立ち、「プライベート・ライアン」のように派手な市街戦があります。
ちなみに赤いサングラスの男に対して、ジョエルが最初、嘘をつきます。大学の取材に来たと。これはシャーロッツビルに名門バージニア大学があるから。
さて、この映画の凄まじいところはフィクションを創り上げるにあたっていままでのアメリカ映画のタブーを楽々超えてきていることです。
一つ目はアメリカに内戦が起こること。
二ツ目はアメリカ合衆国が戦争に敗れること。
三つ目は戦争に敗れた合衆国大統領が処刑されること。
一つ一つはSF映画とかで設定されたことはあるかもしれないが三つ揃ってということはまずない。
内戦がいかなる経緯で始まったのか、どのように推移したのか、大統領がどんな国家指導をしたのか、ほとんど詳細は明らかになりません。
わずかに言及される西部連合はカリフォルニア州とテキサス州から構成されているという話、その両州が組むはずはないというレビューもありますが、そんな細かいことはどうでもよろしい。またドラマ部分が基本的には新人カメラウーマンの成長譚でややぬるいってところもありますがそれも別に関係ない。ドラマが乗っかっているフィクションの状況設定が有無を云わせぬ迫力を持っているからね。
この映画の観るべきところはフィクションの骨格部分をつくったA24という映画会社の企画力と突破力です。メジャー映画会社にはおそらくできなかったでしょうね。
追記
戦場ジャーナリストについて触れているレビューが多いので一言。
中立、公正であるべきという教科書通りのジャーナリズムを体現するのはサミーとリーの2人。でも大統領と対面する以前に命を失った。最後まで大統領を追うのはジェシーとジョエルの2人。彼らはすでに大統領を処刑する意図の兵士たちと一体化してしまっている。ジェシーはカメラを銃のように扱い、兵士のような身のこなしで。ジョエルはジェシーをかばいながら踊るようなステップを踏んで。
そう最後のシーンは、ムッソリーニやチャウシェスクのように、民衆が大統領を殺すシーンである。
アメリカの大統領は、国父という以上にアメリカそのもの。だからこの映画ではアメリカ人によるアメリカ殺しが描かれる。そして、そこにはジャーナリストも加担しているのである。
コメントありがとうございます。私も余韻を引きずっています。
記者たちの物語上の立ち位置は、内戦の様々な悲惨を見せるための狂言回し的なものに見えました。
並んで走る車に乗り移るシーンの能天気さも、その後の地獄を強調するための描写でしょう。私はその場面に少しイラつきながらも一瞬気が緩み、直後のプレモンスに叩き落とされました。
おっしゃる通り、記者たち自体についての描写の甘さはさして問題ではないと思います。