「戦争の狂気は相手がどこの誰であろうと」シビル・ウォー アメリカ最後の日 ハルクマールさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争の狂気は相手がどこの誰であろうと
狂気であり続けるんだなぁ。
アメリカ国内を二分する内戦が勃発、政府軍劣勢の中で2人のジャーナリストが大統領に直接インタビューするためにワシントンDCに向かう。
現地へ向かうための準備を進める中、クルーの一人である女性カメラマンのリーは、駆け出しのカメラマンのジェシーに出会い、彼女も同行したいと言う。
反対するリーをよそに、ジェシーはリーの相棒ジョエルに話をつけて同行することになる。
彼らにアドバイザー役のサミーを加えた4人のジャーナリストは、カリフォルニア、テキサス両州を中心とした同盟WFの最前線基地のあるシャーロットビルを目指して車を走らせる。
内戦に至った背景やそれぞれの勢力の有利不利は劇中の台詞の中から読み取る必要があるけど、それにしてもよくわからない。何故二分するに至ったのか、何故WF勢力がこれほどの軍力を持っているのか、諸外国の介入はあるのか無いのか、などなどほぼ解説くさいもなは無し。
でも、それは段々必要がない、意味を成さないものであることが理解できる。
そんな事はどうでもいい。今、目の前で国が二つに分かれて同じ国籍をもった者同士が戦闘を続けている。
その理不尽さ、無意味さに裏付けなど必要ないし意味を成さない。
ベテランカメラマンのリーは的確に状況を見、判断して時に慎重に、時に勇猛に進んで決定的な瞬間をフィルムに収める。
リーに憧れるジェシーは、その戦場のリアリティに圧倒されながらリーの一挙手一投足に学んでいく。
そしてクライマックスでのリーとジェシーの突入は、経験し尽くしたリーとまさに経験中のジェシーのコントラストを残酷に、鮮明に表現していく。
実際にあった戦争を描くとついつい実際のエピソードを追いかけるような形になるし、遠未来戦争にはリアリティが無い。
まさかのアメリカ国内の内戦という、そんなことあるかよ、と言いたいけど実は言い切れない微妙かつ絶妙なテーマを、いかにもありそうなエピソードを絡つつ、相手がどこの誰であろうと、戦争は人の心を壊していくものなのだと訴えかけてくる手法は斬新かつショッキングだ。
アメリカ国内ではさぞ居心地の悪い映画だっただろうことが想像できる。
出演者の中ではリー役のギルステン・ダンストの存在感が圧巻。ベテランらしい落ち着きと冷徹さを持ちつつ、駆け出しのジェシーに対する母親のような可愛さと心配をない混ぜにしたような感情、更には戦争に対する複雑な感情を殺しながらの取材などとても難しい感情が自然に表現されていて圧倒された。
相棒のジョエルや師匠のサミーも普段は軽口を叩きながら、命のやり取りをしそうな時の冷静かつ慎重な判断や果敢な行動に、その道のプロとしての矜持を感じさせられた。
ジェシーはもうその成長が…リーならずとも誇らしくなる。
若干ジャーナリズムを美化というか正義と捉えすぎているきらいはあるものの、余計なものを排除したまさに戦場を擬似体験できる秀作。
アメリカ人ならショックで3日間ぐらい寝込みそうだけど、日本人なら冷静に鑑賞できるはず。
万人には勧められない覚悟のいる作品、だけど観た方がいいと言いたい作品。