「報われない母性、母体」ガール・ウィズ・ニードル KaMiさんの映画レビュー(感想・評価)
報われない母性、母体
妊娠や授乳という女性ならではの役割、さらにいえば子宮や乳房といった器官を、なりふり構わず「武器」にして生き抜く女性たち。同時に、それが本来の目的に向けられない痛ましさを見せつけられる映画だった。
裁縫工場で働くカロリーネは、戦争に行った夫を待ちながら困窮している。形勢逆転のため工場長の男性と関係を持ち、妊娠を理由に結婚にこぎつけようとするが、所詮は身分違いで破談。望まない妊娠に加えて工場もクビになり、完全に空回りだ。
入浴施設で自ら堕胎(!)しようとしているところ、養子縁組を斡旋する中年女性ダウマに出会い、産んだ子どもを託す。
子どもとの別れが皮肉にもカロリーネの母性を目覚めさせた。養子に出された赤ちゃんの引き取り手が決まるまで授乳する役目を引き受ける。それだけでなくダウマの7歳の娘イレーネにも母乳を与え始めるのだ。
前半までの悲痛な物語とは違い、曲がりなりにも母性の暖かさを感じる展開だが、ここで明らかになる恐ろしい事実。ダウマは赤ちゃんを養父母に斡旋などしておらず、自ら手をかけて殺害していたのだ。もちろん、カトリーネの子どもも。
多くの子を殺めながら、実子ではないイレーネを大事そうに育て、その子にカトリーネの母乳を飲ませる間、別の若い男と情事にふける。ダウマは女性として多くの矛盾を抱えており、謎の深さは陰の主人公と呼ぶのがふさわしい。
そもそも赤ちゃんを養子に出さないなら、乳母役としてカトリーネを雇う必要もなかったはず。ダウマは無意識に共犯者としてカトリーネを求めていたのではないだろうか。秘密を知ったカトリーネと一緒に赤ちゃんを圧殺するシーンは、まるで2人の情事のようだった。
終盤、ついに罪に問われたダウマに代わってカトリーネはイレーネを孤児院から引き取る。救いのあるラストではあるけれど、果たしてこれをカトリーネの成長と言ってよいのか。
容姿に恵まれ、戦争から戻った夫も(負傷によりサーカスの見世物になってしまったが)カトリーネを見捨てない。カトリーネを通じて、縫製工場で働く女性たち(ガール・ウィズ・ニードル)の不幸を描き切れたのかというと少し疑問なのだ。
思えば、産婆や乳母というように他者の生殖に介在する役割を女性は担ってきた。それが支え合いになることもあれば、命の否定に加担してしまうこともある。ダウマだけが加害者ではないだろう、本当の悪はどこにあるのだろうか。

