「美しいモノクロ映像の美」ガール・ウィズ・ニードル たけはちさんの映画レビュー(感想・評価)
美しいモノクロ映像の美
個人的な趣味から言えば物語や脚本は苦手な部類な筈でしたが、それを超えたいい映画でした。
監督・脚本のマグヌス・フォン・ホーンはかなりのシネフィルであり、写真好きと見えて、ドイツ表現主義的なモノクロ映像と、ダゲレオタイプに通じるフィックスショットの美しさで、暗く陰惨な物語を飽きさせることなく牽引していた。
特に、凶行を行うダウマ(トリーネ・デュアホルム)営む、砂糖菓子店(実は秘密の養子縁組所)の毎回同じアングルからのショットの古典的な美しさと、主人公カロリーネ(ヴィク・カーメン・ソネ)が働いていた工場から、仕事を終えた人々が大勢出てくるシーンの、まさにリュミエール「工場の出口」のアプロプリエーション足る撮影手法などは本映画全体に渡る写真・映画的様式美の象徴的な表れと言えよう。
里親斡旋に見えて、実は乳児連続殺人犯だったダウマ。しかしその犯罪は、当時の時代性と社会の暗部をあぶり出すようで、誰しもが必ずしも糾弾できない二面性を持つ。終始一貫してカロリーネの視点で描かれる物語は、その他者視点とモノクロの映像美に支えられて、現代にも通ずる社会的弱者へのいたわりの心すら感じさせる。
ホラー映画ジャンルらしい本作だが、印象としてはアンゲロプロス的な叙事的な物語と思えた。見世物小屋のシーンや、冒頭とラストにある、二重露光のようなある種PV的な衝撃的なシーンには、初期デビッド・リンチ作品が思い出された。
監督はインタビューで、ホラージャンルへの関心として、黒沢清や三池崇史の名前を挙げていたが、溝口健二等の邦画からもインスパイアされてるのかもしれない。
最近なかなか観ることのない、美しく構築性の高い映画でした✨
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