「着想、からのアプローチ」ガール・ウィズ・ニードル TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
着想、からのアプローチ
第97回アカデミー賞において、国際長編映画賞(デンマーク代表)にノミネートされた本作。会員サービスデイのヒューマントラストシネマ有楽町、9時30分からの回はあまり客入り多くはありませんが、層の厚い今週公開作品を考慮すれば健闘している方かと思います。
終戦(第1次世界大戦)直前のデンマーク・コペンハーゲン。改めてWikipediaを確認してみると国としてのデンマークは「中立」という立場のようですが、経済状況は戦争の影響で大変に厳しく、劇中に見て取れる世間の雰囲気、そして主人公であるカロリーネ(ビク・カルメン・ソンネ)の状況もそのことを物語っています。真面目に働いてはいても、女手一つでは充分な収入を得ることはできずに家賃を滞納、遂にアパートを明け渡すように言われるカロリーネ。大家の伝手で何とか移住先は決まったものの、そのかなり荒んだ状態の部屋ですら家賃を払える余裕はありません。そのため、そんな状況を打破しようと勤め先である縫製会社の社長ヤアアン(ヨアキム・フィェルストロプ)に「寡婦手当」を出してくれるよう訴え出るカロリーネ。ところが、このことがきっかけとなりカロリーネの人生は大きく、そして意外な方向へ動き始めます。
本作を観ていて気付くのは、戦後の貧しさに喘ぎながらも皆、他人を見捨てることはせずにギリギリの中で手を差し伸べあって生きていることが見て取れます。登場人物たちがとる言動や選択は、当然に現代の倫理観のままではみられないこととは言え、大変に人間味を感じて理解も出来るし、寄り添えなくもありません。そしてまた、戦争という背景に何かしらのトラウマを抱える者は、モルヒネやエーテルなどに頼り、苦しみを遣り過ごしながら生きる日々がやるせなく、観ていてただただ悲しくなります。
そんな中において、若干「楽観的」に過ぎるとは言え、好転することに期待を持てそうになると決まって裏切られるカロリーネ。ようやく「こうなることが運命だったのか」と思い始める後半、カロリーネの希望を完全に打ち砕くほどの「衝撃の真実」が判明し、観ているこちらも思わず唖然。そして、作品が終わった直後に一文、フィクション映画におなじみの「実際あったことを基に着想を得て作られたストーリー」。観終わって、こちらもWikipediaで追いかけてみると解る「基」の部分に対し、なるほどこれがあってこそ作品のインパクトなのは間違いないものの、このアプローチでストーリーに仕上げたことこそが「作品の評価」に繋がっていることが判って改めて驚き、そして納得。マグヌス・フォン・ホーン監督(脚本)の手練れっぷりを知れ、今後も出来るだけ注目したいお一人。日本でも作品が観やすくなるといいな、と期待して微力ながらチェックインしておこっと。想像以上の良作、見事な一本でした。
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