劇場公開日 2025年8月22日

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「美しいナポリの海を背景にして描く美しく聡明なイタリア人女性の一代記」パルテノペ ナポリの宝石 Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 美しいナポリの海を背景にして描く美しく聡明なイタリア人女性の一代記

2025年9月9日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

Buon Giorno!

我々の人生において人との関わり合いというのはとても重要で、かつ、素晴らしいことです。でも、けっこう難しくて厄介なものでもあります。人がまわりの人に何かを求めてもその求めたものがその人から得られるとは限りませんし、同様にして、まわりの人から何かを求められてもその人にその何かを与えられるとは限りません。それでも、それなりの距離感で接することのできる人なら問題ないのですが、相手が家族であったりしたら、たいへんです。

この物語の主人公、20世紀の折り返し点にあたる1950年にイタリア•ナポリで海中出産にて生まれ、人魚の意を持つナポリの旧称にちなんで「パルテノペ」と名づけられた女性(演: セレステ•ダッラ•ポルタ)は幸せになるために生まれてきたはずでした。家は裕福で彼女も美しく聡明に育ちました。でも、繊細な彼女の兄は永遠に求めることのできない身近な存在に耐えきれなくなって自死します。このことがあってから、彼女は父親とも母親とも気軽に甘えたり、甘えられたりする関係ではなくなり、「家族」というのは彼女にとってトラウマになりました。

序盤に印象的なシーンがあります。彼女は浜辺でアメリカの有名作家ジョン・チーヴァー(ゲイリー•オールドマンが好演してます)と出会い、彼の作品はみんな読んでいてファンである旨を伝えるのですが、彼から「あなたの瞳は光を失っている」と告げられます。そう、幸せになるために生まれてきたはずの人生に不幸せが影を落とし始めていたのです。

彼女はまずは女優を目指しますが、結局は彼女の恩師になるマロッタ教授(演: シルビオ•オルランド)に導かれて人類学の分野で学究の道に進むことになります。この教授がなかなかの人格者でとてもいいです。私はすっかりファンになってしまいました。この映画、主人公のパルテノペはもちろん魅力的ですが、それを取り巻く中年以上のおじ(い)さんたちが負けず劣らず魅力的です。前述のチーヴァーやらマロッタ教授やら、パルテノペの名付け親の提督とか、妖しげなならず者の神父とか。

そして、パルテノペが登場人物それぞれと交す会話にも引き込まれます。哲学的な禅問答のようでいて、実はもっと俗っぽくて人生の大問題をかわしながら生きてゆく術がつまっている感じ。この作品のストーリー運びもそれら会話の面白さとともに少しずつ予想をはずして進んでゆくような感じがあってとてもよかったです。

1950年のパルテノペ出生から始まった物語は2023年 彼女が学者としてのキャリアを終えるところまで続きます。家族という概念がトラウマになっていた彼女は結婚もしなかったし、子を持つこともありませんでした。幸せになるための条件に十分すぎるほど恵まれていた彼女は、結局、不幸せな人生を過ごしてきたのでしょうか。恩師のマロッタ教授は彼女に人類学で大切なことは「見る」ことだと彼女に伝えました。海を始めとする美しい自然や様々な人々を見て、彼女は十分に幸せだったのではないでしょうか。

エンドロールでは地中海の波の音が流れます。映画内では地中海の美しい風景が展開されました。でも、そういった自然の力とともに、ちょっと逆説的にもなりますが、人間の持っている力の素晴らしさ、芸術性みたいなものを感じさせる作品だったように思います。

Grazie.

Freddie3v
talismanさんのコメント
2025年10月13日

レビューに心から共感しました

talisman
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