劇場公開日 2025年5月16日

「誰かのミドルエイジクライシスの肖像」サブスタンス うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0誰かのミドルエイジクライシスの肖像

2025年6月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

過去に女優として活躍し現在は朝の番組のエクササイズコーナーでフロントを務めているエリザベスが、美容のアイコンとしての期限切れを宣告されたことから、謎の療法を使って産み出した分身・スーの姿でキャリアの再生を計る物語。
そっくりさん・クローン・多重人格などをギミックにして一つの体や存在を共有する二重生活の栄華と、リスク管理の失敗の果ての凋落を描く作品は多々ある。本作は二重生活のリスクを生身の体に負わせる形をとっており、その描写も生々しい。

青春映画・恋愛映画で売れた後、キャリアチェンジに迷走する俳優は洋の東西を問わず沢山おり、フィクションの題材にもなっている。男性の場合はコメディとして描かれることもあるが、女性の場合はブラックな物語になることが多く、その点では本作のストーリーには新しさを感じなかった。
これまでのキャリアで幾度も役作りや依存について話題になったデミ・ムーアをエリザベス役に据えたことに最大の意味があるのだろうが、本人は役作りを改造とする周囲の憶測をあまり認めていないし、近年、過去の推され方や過剰なトレーニングをネガティブに語ってもいるので、なんとも意地悪な配役だな、と思う。

エリザベスをルッキズムやエイジズムの被害者とする論調をよく目にするが、エリザベスが本体に戻っている時の過ごし方やスーの行動を見ると、そうとも言い難い。
本作はルッキズムやエイジズム・視聴層の代弁者を気取る商業主義への反発だけでなく、女性達もまたそこから離れないことへの批難もあるのではないだろうか。感情や衝動をストレートに形にしたようなエネルギーに溢れた作品ではあるものの、全方位にネガティブなものが漂いカタルシスがない点は、監督自身がまだまだ懊悩の中にあるのかも知れない。

グロ・スプラッタ描写がくどく、誰も成長しないストーリーはシニカルやユーモアを通り越して下らなく思えた。
ホラークリエイターへの誉め言葉という意味で「二度と観ない」。142分の使い方としてもっと練った作品に出会いたいという意味でも「二度と観ない」。

本作の特殊メイクは、しばらく休業しなければならないほど肌へのダメージになったという話も聞く。その点においても本作にはあまり好感を持てなかった。

コメントする
うぐいす