「ルッキズムと男性優位社会へのアンチテーゼ」サブスタンス すーちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
ルッキズムと男性優位社会へのアンチテーゼ
「ドリアン・グレイの肖像」や「永遠に美しく」のように、若さと美しさに執着して手酷いしっぺ返しを食う物語、の類型ですが、執着せざるを得ない社会へのアンチテーゼも含めた一歩先行く作品。
さらに、作り込んだ映像と特殊メイク、主演女優2人の存在感のおかげでとんでもないクオリティに仕上がっています。
若くも美しくもない女は用済み、という価値感が支配する世界。
舞台となるTV局は極端にデフォルメされた男性社会。(上役もプロデューサーもクルーもほぼ男しかいない)
スーがエリザベスを嫌悪し始めるのは自然な流れ。
男性優位社会の中で恩恵を受ける若い女性は、高齢女性を容赦なく攻撃するものです。その昔、日本でも「30過ぎると羊水腐る」発言した若手女性芸能人がいましたっけ…
スーの神々しいまでの美。エアロビシーンの肉体を舐め回すようなショットだけでなく、エリザベスの背中から出てくるシーンや、裸で無防備に横たわる姿はルネサンス絵画で描かれるヴィーナスそのもの。
若くて美しいことを人類このかた600年近く賛美してるんですよ、わかってますよね?という確認のよう。
その価値観はエリザベスだけでなく、観客自身をも蝕み、老いさらばえたエリザベスを執拗に攻撃するスーの怒りにいつしか同調していきます。
2人でひとつ、の彼らが繰り広げる自傷行為を延々と見せられ続けた先のクライマックスがさらに凄まじい。
ラスト10分強をあそこまで血と臓物で塗りたくったことに、監督の社会に対する強い怒りを感じました。
それにしても、フランス人女性監督がこの映画を撮ったことにやや驚きました。
アメリカなんかと比べたらフランスって熟女が自信を持って恋愛を楽しんでいたり、若さ至上主義ではないイメージ。アンチエイジングにそれほど熱心でない女優さんも沢山います。
最近は違うのでしょうか。
デミ・ムーアについて。
彼女は妊婦ヌード披露に始まり、役作りで筋肉ムキムキ化、その後全身整形を告白など、肉体改造をしながら生き残ってきた女優さんなので、今回の役は自分の黒歴史をネタにしてさらに破壊するようなもので、もんのすごい精神力がないとできない役ですよね。
62歳にして最強の女優魂を発揮したのだから、オスカーあげてほしかったな…
マーガレット・クアリーの母のアンディ・マクダウェルはデミ・ムーアとほぼ同年代で、80年代の青春映画「セント・エルモス・ファイアー」でデミと共演もしています。
映画のテーマに共感したなら、マクダウェルの自然に年齢を重ねた姿を賞賛すべきなんでしょうが、デミの年齢を超越した美しさを目の当たりにすると、あー自分も少しはあやかたりたいな、なんて思ったり。
ほんと、染み付いたルッキズムとは厄介ですね。
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