「【"母体と分身。そしてありのままの自分を認めなかった報い。”今作は、女優に若さと美のみを求める映画界への辛辣なメッセージを込めた予想を遥かに上回るグロテスクで、哀しきクリーピー&フリーク映画である。】」サブスタンス NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【"母体と分身。そしてありのままの自分を認めなかった報い。”今作は、女優に若さと美のみを求める映画界への辛辣なメッセージを込めた予想を遥かに上回るグロテスクで、哀しきクリーピー&フリーク映画である。】
ー 冒頭、白身がドロッと崩れた古い卵黄に、注射器の針が刺され黄色い液体が注入されると、その卵黄から新しい卵黄がプルっと出て来る。そして、このシーンは、この映画のその後の展開を見事に示しているのである。-
■元人気女優の50歳のエリザベス(デミ・ムーア)は、朝のエアロビクスのTV番組に出演していたが、容姿の衰えからプロデューサーのハーヴェイ(デニス・クエイド)から首になる。彼女は失意の中、車を運転している時に事故に遭うが、担ぎ込まれた医院の若い医者から違法な再生医療の"サブスタンス"を提示され、手を出してしまう。
入手した薬を腕に注射すると、エリザベスの体内で細胞分裂が起こり、背中を破って若く美しいスー(マーガレット・クアリー)が、ぬめっと全裸で現れるのである。
エリザベスとスーの間でのルールは、一週間毎に入れ替わる事。だが、ハーヴェイにその美しさを絶賛され人気が爆発したスーは、入れ替わりの頻度を徐々に、伸ばし始めるのである。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作を観て思ったのは、デミ・ムーア姉さんは、良くエリザベスの役を引き受けたなという事である。後半の展開と異形に変貌していく姿は、美人女優としてキャリアを築いて来た彼女にとっては、演じるのが相当の覚悟が必要だったと思うのだが、それを演じ切ったデミ・ムーアの痛烈なるメッセージ
”映画界は、女優の若さと美貌のみを尊いモノと思ってんじゃないわよ!”
という思いが、ビシバシと伝わって来た怪演であった。流石、デミ・ムーア姉さんである。
・デニス・クエイド演じる下品で女優の"表面的な若さと美"のみ追求するプロデューサーのハーヴェイは、どう見てもセクハラ大魔王で、映画界を追放されたハーヴェイ・ワインスタインを皮肉っているのである。あの役を見ても、女性であるコラリー・ファルジャ監督の今作に込めたメッセージが分かるのである。
・マーガレット・クアリー演じるスーのエロティックな肢体がコレマタ物凄く、こんな女優さんだったんだ!とびっくりしたモノであるが、エンドロールを観たら、ヤッパリ映像加工していたね。凄いなあ、映画技術の進歩。
・途中からのエリザベスとスーの入れ替わった際に、抜け殻のようになった相手の身体に栄養剤を注入するシーンもナカナカだったが、スーが自分がスポットライトを浴びた事で、入れ替わりの時期を徐々に伸ばしたがために、目が覚めたエリザベスの人差し指が老化している事に気付くシーンは怖かった。だが、その後にもっとトンデモナイ展開になって行く様は、正に強烈なる反アンチエイジングホラー映画である。
■物凄く嫌だったシーンは数々あれど・・
1.スーが、一週間毎に交代するルールを守らなかったために、エリザベスが目覚めた時に、髪は抜け落ち、背中は曲り、顔の半分が崩れている姿を鏡で見て、絶望的な表情になるシーンである。エリザベスは慌てて違法な再生医療施行社に電話するも”元には戻りません・・。”と機械的に流れるメッセージ。嫌だなあ。
2.スーが、エリザベスが自分に打った”中断”の注射のために、鼻血が止まらなくなり、老婆と化しているエリザベスを鏡に何度も打ち付けて、血だらけにするシーン。”分身が母体を殺すと・・。”ウワワワ・・。
で、大晦日の番組の司会にハーヴェイから大抜擢されたスーが、青いドレスを着て鏡を見ていると、根元から歯が抜け落ちるシーン。嗚呼、嫌だ、嫌だ。スーが前歯を自分で引っ張ると次々に抜けていくのである・・。
序盤から何度も映される真っ赤な廊下は、”シャイニング””サスペリア”などの傑作ホラー映画を想起させるが、あの廊下で歯が抜けたスーに、ハーヴェイ達が”笑顔を見せないと・・。”と迫って来るシーンも嫌だったなあ。
<エリザベスが更に"ラスト"の注射を打つと、細胞分裂の暴走により、最早人間の姿ではなくなっているにも関わらず、満員の聴衆の待つステージに立つシーンは、哀しくて、且つグロテスク過ぎる。身体の中から落ちる萎びた乳房。身体のヘンな位置にある顔。飛び散る血膿。泣き叫ぶ子供。"怪物を撃ち殺せ!"と叫ぶ男性客。
そして、ドロドロの顔のみになったエリザベスは、序盤にも彼女の凋落の象徴として描かれた”ハリウッド・ウォーク・オブ・フェーム”に埋められた自分の名が記された星の上に辿り着くが、翌朝、清掃員により綺麗に掃除されて無くなるのである。実にシニカルだなあ。
今作は、女優に若さと美のみを求める映画界への辛辣なメッセージを込めた予想を遥かに上回るグロテスクで、哀しきクリーピー&フリーク映画なのである。>
コメントありがとうございます!
そうなんですよ、まさに前半ジワジワ、後半ウワワーな状態でした。多分私の口は開きっぱなしでした。
クアリーは加工済みだったんですね。確かにまあ、そりゃそうだ。人間だもの。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。