「シンプルとは真逆に行く巨匠の若々しさに驚愕」メガロポリス kozukaさんの映画レビュー(感想・評価)
シンプルとは真逆に行く巨匠の若々しさに驚愕
御年86歳の巨匠が私財をなげうち、誰にも文句を言わさず好き勝手にやりたい放題の自主制作超大作映画を撮ってしまった。まずその事に驚愕する。
そして人間、巨匠と言われるようになると感覚は研ぎ澄まされシンプルの局地に向かうことが通常だと思われるが、コッポラ監督は真逆。まるで新人監督のように表現が溢れ、とどまることを知らず混沌としている。カンヌ映画祭でも賛否両論の問題作なのだ。
この作品を意味がわからずつまらない、と一言で言ってしまうのは簡単だ。しかし映画の神が40年も前から構想し、中止の危機も乗り越え最後は自主制作で完成させた映画がつまらないわけがないのだ(ストーリーがという意味ではなく)。
21世紀のアメリカ共和国の都市、ニューローマ。都市計画局のカエサル(アダム・ドライバー)は理想都市「メガロポリス」の建設を目指している。一方市長のキケロ(ジャンカルロ・エスポジート)は財政難解決の経済政策に邁進する。この対立はその名前でも明らかだが古代ローマ帝国の盛衰が重ねられている。理想主義か現実主義かの対立は現在のアメリカの写し鏡であり40年前から構想していた事に驚く。
その対立を軸にキケロの娘、やり手の女性テレビ司会者、大富豪ファミリーと多彩で魅力的な登場人物が権力闘争を繰り広げる、というアウトラインがあれば重厚な闘争劇が展開できたはずだ(ゴッドファーザーを撮った監督なのだから)。ところがコッポラ監督はそんな大衆迎合はしない。
観念的で哲学的なセリフの応酬、カエサルがノーベル賞を取ったという新素材で建築するオーガニックな理想都市、ローマのコロッセオを模した空間で行われる大結婚式は「ベンハー」の戦車戦やフェリーニ監督のサーカスの場面を再現したようなスペクタクル。人工衛星の墜落による都市崩壊、時を止めることができるカエサルの超能力と、もはや誰も止められないカオスな展開、映画全部入りなのだ。
ただ、メッセージは単純明快、このままでは世界は終わる。ローマ帝国が滅んだのはなぜなのか過去に学ぶべき、というもの。ラストシーンは子供達に未来を託す、というもの。
その内容を映像アートのスペクタクルで表現する手腕は脱帽だ。
まだまだアイデアは溢れ出ている巨匠の次回作にも期待したい。(完成することを願う)