「亡きエレノア夫人に寄せる思い」メガロポリス 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
亡きエレノア夫人に寄せる思い
コッポラ監督が、経営していたソノマのワイナリーを整理してまで、製作に漕ぎつけた、近未来のアメリカを舞台にした映画ながら、難しいと思った。3点に要約できる。
まず、我々にはなじみが薄いローマ史の理解が必要、哲学者キケロと彼が執政官の間に起きたカティリナによる政権転覆事件。これが第一層。
第二に、ローマで起きたことが植民地としてのアメリカに持ち込まれる。「地獄の黙示録」の図式。植民地ニュー・ローマ(NYを思わせる)では、ローマの矛盾が拡大する、社会構造の分離・格差。ただし、重要な変更が。キケロは現実重視の市長に。主人公カティリナは、理想派の市・都市計画局長に、カエサル(シーザー)・カティリナとして(ただし、ローマ史では、キケロは、必ずしもカエサルと対立したわけではない)。これが第二層。
さらに、カエサルが新建築素材を見つけてノーベル賞を受けたり、衛星が地球に衝突したり、多くのエピソードが洪水のように出てくる。しかも、彼の叔父の資本家クラックス3世と、その出来の悪い息子をはじめ、さまざまな親族とその関係者も。特に、主人公の前の恋人ワオが、クラックス3世の妻に収まるが、これが、カエサルの新しい妻になるキケロの娘ジュリアと似ているんだな(髪型は違う)。この三層構造を一回で判れと言われても。
混沌としたストーリーの進む中、心に残るのは、主人公カエサルが亡くなった奥さんサニー・ホーム・カティリナに寄せる思い。コッポラ監督のエレノア夫人に対する愛情を反映しているのでは。それから、すべての人々に長い命、正義と教育を、というメッセージ(ただし、いまさら感あり)。
日本に対する好意の表明も。Japan Unitは、おそらくローマ風の競技場で行われた格闘技に関与したのか、グレコ・ローマン・スタイルのレスリングには見えなかったから。カタカナ書きのプラカードや、サヨナラのセリフも。
では、最初から知識を以って観たらよいかと言えば、映画を最後まで観るには、興味を持ち続ける必要があるので、難しいところ。