「涙が止まらない」ANORA アノーラ 島田庵さんの映画レビュー(感想・評価)
涙が止まらない
予告と公式のあらすじを見て思い描いていた映画とは、
3つの点で大きく違った。
まずは、全体のつくり。
環境音以外の音楽は、最初から最後まで一切ない。
つまりは、ドキュメンタリー風味。
カメラも手持ち多し。
次に、構成。
第1部から第3部までに勝手に分けちゃうと、
第1部は「アニーのお仕事編」。
その詳細が緻密に描かれる。
「あの行為」の客観的に見た時の滑稽さがわかるほど、
ベタつきなく描かれる。同時に、アニーが(やむなき)「プロやなあ」ということが分かる。
3つめは、ストーリー展開。
第2部で、まさかあんな展開になるとは、
思ってもいなかった。
そしてこの第2部が、
ワタクシには大好物で、
終始クスクス、ワハハと笑いどおし。
ここから先は、
ネタバレ気味。
* * *
「親バレ」後、
お坊ちゃま君がいきなり家出したあとの、
長年子守役をしてきたおっちゃん及び
その手下のボディガード2人対
アニーの「たたかい」(ここはカギ括弧をつけたい)と、
なぜかそのあと呉越同舟で
お坊ちゃま君を探すロードムービーが、
一挙手一投足、台詞のいちいち、
隅から隅まで面白くって。
さらには、
お坊ちゃま君の両親が自家用ジェットで駆けつけた第3部。
母親との闘い(ここはまさしく「闘い」)の推移(と周りの対応)がまた見もので。
そしてそして、
あの彼の台詞と行動、
途中からある程度予想はついたけど、
その予想を超えてきて。
と思いきや、アニーは、
やっぱり「プロ」根性というか職業病が抜けなくて。
ここからは、
完全にラストのネタバレ。
* * *
ラスト、
職業病的対応をして、
相手が「心通じたか」と思って反応しようとしたら
職業的反射的拒絶反応が出ちゃって、
でもほんとのラスト、
それを自覚して。
きっとこれで、アニーの、
フロリダ出身で、ディズニーとシンデレラが憧れだったアニーの、
いや、本人は「アニー呼び」にこだわってたけど
「俺は、アニーよりアノーラの方がいいと思う」
と言われたアノーラの、
心のどこかしらが、
ほどけたに違いない。
今思い出しても、
涙。
そこで、タイトルが出る。
アニー、ではなく、
Anora
と。
さらにさらに、涙涙…