「アノーラが理解出来なかった←当初はこの考えで⭐️2.5でしたが、様々な方の感想や解説を聞き変わりました。」ANORA アノーラ オニオンスープさんの映画レビュー(感想・評価)
アノーラが理解出来なかった←当初はこの考えで⭐️2.5でしたが、様々な方の感想や解説を聞き変わりました。
アノーラのイヴァンに対する思いが汲み取れず、またアノーラに対しての描写、特に前半と後半の描き分けが個人的にも気に入らずで、自分自身アノーラに対してどう向き合えば、どう見れば良かったのか分からない状態がエンディングまで続いてしまったというのが1番最初に出た感想。
物語前半、アノーラが初めてイヴァンの家に訪れ、セックスをした後、彼女はイヴァンに「あなたって面白い」と言い、「どこら辺が?」とイヴァンが返し「その•••なんか面白いしクール」というようなやり取りがある。
そこになんの具体性もないし、人を褒める時の1個目を出しているだけのような、ただその場凌ぎの取り留めのない会話をしている。
本当に面白い状態は「あなたって面白い」なんて言わず、2人の会話が自然と盛り上がり、持続している状態だと思う。
だからあのシーンはアノーラが気を遣い、イヴァンをお客として接している。
そして、彼から契約彼女になって欲しいというお願いも「いくら払える?」というジェスチャーで答える。
結婚を申し込まれた際も「3カラットの指輪お願いね」と高価な指輪をねだる。
終始アノーラはイヴァンに対し、恋人ではなくお客として接し、愛ではなくお金を欲している。
だからあの結婚は、アノーラはお金、イヴァンはグリーンカード欲しさとただのセックス相手という利害の一致をノリと勢いとラスベガスの雰囲気に呑まれ、幸せな結婚だと勘違いを起こし、欲は渦巻いていたが、純愛で結ばれたわけではないのは目に見えて分かる。
ただ後半のアノーラはお金というより、むしろ愛が故かの様な行動を繰り返す。
その不一致が自分自身どうも納得いかなかった。
まず、アノーラがイヴァンを探すメリットが分からない。
アノーラにとって、婚姻関係が結べていれば良いわけで、その関係を破綻させようとしている連中に道案内をする事と同義にも関わらず、協力することに違和感を覚えてしまった。
1万ドルという額も少なすぎるし。
そして、イヴァンを見つけて開口一番「どうして電話に出なかったの?」と、まるで愛している人が期待に応えてくれなかった、裏切られたかの様な口ぶりで言う。
それを聞いた私は、それがイヴァンを探した理由?アノーラはイヴァンに愛も求めていたの?という考えがよぎり、非常に混乱した。
また、アノーラがイヴァンや母親に離婚を迫られ、すぐに離婚したのも分からなかった。
母親が「少ないお金も、友達も家族も失うわよ」と脅していたが、アノーラが得られるかもしれない財閥の資産という莫大なお金に比べて、リスクが些か小さすぎるのではないかと感じた。あの脅しで飛行機に乗るならば、アノーラが如何に家族や友達を大切にし、失いたくなかったのかを描いて欲しかった。
そして機内での「ただエスコート嬢と遊んでいただけ」というイヴァンの発言に、幻滅と怒りのこもった表情に「バカ息子と離婚出来て良かった」と怒鳴る。
そしてアノーラが婚姻の取り消しに署名する直前、何を期待してか「本当にこれでいいのね?」と言わんばかりにイヴァンを見つめ、その問いかけを拒否するかのようにイヴァンはグラサンをかける。そしてアノーラは殴り書きの署名をする。
後半のアノーラの行動がどうにも釈然としない。
前半の動機とはズレ、後半のアノーラはイヴァンからの愛が当然あるという前提で行動しているようにも見えた。
それはアノーラが「子供の結婚って親は喜ぶものでしょ?両親に挨拶したい」と言っていた通り、愛する2人が結ぶ結婚という、2人がした結婚とは違う、幻想に囚われたが故の行動なのか。お金を私に使ってくれる=愛だと勘違いしての行動なのか、それとも彼女を思慮浅い間抜けな女として描きたかったのか、捉えきれなかった。
その割には、仕事には真面目で、保険や年金など現実問題はしっかり見据え、気丈で勝気、母親に「イヴァンは貴方が嫌いな人を選んだ」と芯を食ったことも言っていた。
アノーラというキャラに、やはりズレが生じていたと感じてしまった上に、彼女は自分自身をどこまで分かっていて、どこまでを分かっていないのか、その真意が曖昧で掴めなかった。
そして、本作の見どころであるエンディング。
彼女が、金も、愛も、人格も全てを金持ちから踏み躙られ、ズタボロに疲弊し帰還したところに、指輪という優しさに触れ、また「おばあちゃの車」という言葉に(彼女がロシア語しか話さない祖母を持ち、ロシア語を理解出来る所から、祖母とよく会話していた、少なくとも愛を持って接していたのではないかと想像できる)何かしらのシンパシーを感じ、セックスを差し出す。そこは理解出来る。
ただ、イゴールがそのセックスに応えたのはよく理解出来なかった。
イゴールはアノーラに対し、終始優しさを持って接していた。ただそれは愛や性欲というよりも、哀れみや同情の類の感情が起因であったように思える。だからあのセックスは断る方が自然ではないか?と感じた。
イゴールのあの行為は衝動的な欲として応えたのか。分からない。
もしかしたら、イゴールは優しさで彼女を抱いたのかもしれない。ただ、優しさで抱いたならば、イゴールからキスを迫った、あの場面は疑問が残り、イゴールというキャラにも若干、ラストに違和感を覚えてしまった。
そして、ラスト彼女の涙。
あの涙は社会的強者に全てを踏み潰された悔しさなのか、人生を振り回された事に対しての怒りや悲しさなのか、キングサイズのベッドでセックスに勤しんでいた生活から、シングルベッドの小さな部屋に、現実に引き戻された虚しさなのか、全ての強がりを抱えきれなくなった、限界を越してしまった涙なのか。
様々な解釈が可能だが、個人的には、アノーラという人物造形に甚だ疑問を抱き、感情移入も出来なかった為か、まぁ正直どうでもいいかなと。
ただ、物語の展開、シリアスになり得る場面をコメディーに変更する、という意外な路線変更も楽しめた上に、4人のセリフの掛け合いや珍道中も非常に面白かった。
また、本作は35mmフィルムで撮られ、その淡さ、質感も非常に綺麗で素晴らしく、4人が浜辺を歩くショットなんかは大変魅力的であった。街中の光の輪郭がボヤけ、表情に深くフォーカスが当たるのも絶妙であり、派手な色使いや選曲も素晴らしかったと思う。
総じて、細やかな画としての描写や、ストーリーの展開は気に入ったが、肝心の映画内に出てくる人物に共感出来ず、描写不足にも感じてしまい、本作を傑作とまでは言えなかった。
いろいろな方の感想や解説を見て、非常に納得でき、自分自身、盛大な解釈違いを起こしていたと感じた為、追記、修正させていただきます。
私自身、後半のアノーラはイヴァンに愛やお金などの何かしらを求めた、正妻としての恩恵を熱望する、離さんとする結婚生活と捉えてしまっていたが、そこが間違っていた。
後半のアノーラの行動は、イヴァンに対してお金や愛を求めていたのではなく、美人局でも何でもない、ただ彼からの素直なプロポーズを受け、自分たち2人が「正当に結んだはずの婚約」に対して、不当に邪魔する者達への抵抗、こんな形では奪われまいと闘う、すなわち人としての権利の主張であった。
だから、アノーラの動機のズレではなく、私自身がアノーラに対して見当違いな解釈のズレを起こしていた。
アノーラがイヴァンを探した理由は「2人でまた話し合いたい」という、2人で決めたはずの結婚に、勝手に介入し阻止しようとする第三者を許すまいとするのが動機であり、「身分不相応、男をたぶらかした、イヴァンは貴方を愛していない」と不当な扱いをした人達に、彼女は激しく抵抗していただけの事であった。
ただ、現実はその抵抗虚しく、資本主義の覇者という巨人に簡単に蹴散らされてしまった。
彼女は、お金とか愛とか人格よりも重要な、根源的な彼女自身の誇りを完全に踏み潰されたが故の、あの涙である。
この映画はロマンスやコメディーという側面もあるが、本質は、1人の女性が自分の扱われ方に対しての尊厳を守り抜こうとした、という勇ましい物語であった。
学生のうちは甘えましょう!勉強、バイト、恋愛、遊び、旅行…まだ体力のあるうちにあらゆる経験をしてください。就職したら1日の大半は仕事ですようwww😂
それにしても知的な視点ですね。まだ学生さんだったとは!