「痛み」ANORA アノーラ たまさんの映画レビュー(感想・評価)
痛み
カンヌ映画祭パルムドール、ゴールデングローブ賞、
アメリカアカデミー賞では作品、監督、主演女優、脚本、編集賞5部門受賞。
他の様々な映画賞でも受賞を重ねた。
監督はレッド・ロケット、フロリダ・プロジェクトなどで
市井のアメリカを描く
今注目される気鋭のショーン・ベイカー。
アメリカの声なき声を掬い上げ、市井に生きる労働者、社会の底辺を生きる人々の物語を描いてきた、と言われる。
今、だからこその時代の傑作を作り上げた。
圧倒される139分。
優れた作品というのは、私たちがある程度考えられる物語の結末を裏切り、思ってもみないところへ連れて行ってくれるものである。
今作、まさに私にとってはそうだった。
NYでストリップダンサーとして働くアノーラが、客として来たロシア富豪の御曹司と知り合い、結婚。しかしロシアからそれに反対、潰しにかかる両親がやってくる。
さて、2人はどうなっていくのか、という物語。
ジャンルでいえばスクリューボールコメディではあるが、
前半部と後半部で、味わいが全く変化する。2人のラブストーリーを騒々しいまでの派手さとスピード感溢れる演出で描く。一転、ロシアコミュニティ、両親がやってくる後半はアニーの焦燥感、哀切感を全面に押し出したロードムービー的展開に変転する。富豪青年イヴァンが逃走するからだ。
かつてならプリティーウーマンのような、豊かな紳士男性が女性を幸せにする、という定型ジャンル映画がヒットした時代もあった。
ロマンティックコメディも全然否定はしないし、面白い作品、良い作品もある。
だが今、プリティーウーマンは過去のものになった。
アノーラが恋するイヴァンは調子が良いだけの、金持ちボンボン息子。ルックスだけはよい。イヴァンの両親はいわゆるセックスワーカーのアノーラを見下し、露骨に差別する。
アノーラは満身創痍になりながらも、最後まで諦めない。
映画はアメリカン・ドリームの幻想をも描いているのか。
いやそもそもそんなものはあったのだろうか…
シンデレラはただのファンタジーなんだろう。
しかし、切り捨てられる物語でもない。
カンヌ審査委員長であったグレタ・ガーウィグが
今作についてハワード・ホークスやエルンスト・ルビッチ
の名前まで出して絶賛した、という。
アノーラ演じるマイキーマディソン。威勢のよいパワフルな演技で魅せつつ、繊細さも存分に表現。素晴らしかった。
後半、イヴァンを共に追うロシア系アメリカ人イゴールを演じるユーリー・ボロソフの眼差し、たたずまいが良い。
アメリカ社会の一断面、いやアメリカだけでなく日本でも同様だろう。
また自身にとっても…。
ショーン・ベイカー監督の人間を真摯に見つめる眼差し、ユーモアと共に社会批評的側面も持つ物語群の、ひとつの到達点となった映画であると思う。
性的描写が多く、R18映画でもあり足が向かないむきもあるかとは思う。
しかしながら、パワフルかつスピード感溢れる演出、人間性の繊細さをユーモア溢れる描写で描いた作品。
一見に値する。得るものは必ずある、と私は思う。
ラストシーンが痛みに満ちている…。
asaさん
こちらこそありがとうございます。
賛否ある監督ですが、インディーズ系で、オリジナル作品作るのも大変だと思います。貴重な監督ではないか、と感じています。
U-3153さん
どうもありがとうございます。
僕にとりましてはU-3153さんのレビュー、すごく細かいところまで観ておられ、よく考察されてはるなぁと。理解しやすくストレートに伝わり、共感しました。
賛否両論の映画ですが、評価、絶対的なもんでなく、概ね相対的なもんだから。人それぞれ個々人の捉え方ありますよね。
これからも読ませていただきます。
ありがとうございます。
俺のレビューは感想ですけど、たまさんのは評論になってて、素晴らしいレビューでした。
特に前半と後半の着眼点とか読み応えありました。
あのラストは確かに痛々しかった。
こちらこそです。いつもありがとうございます。
ほめていただき恐縮です。
彼女の痛み、和らいだのでしょうかね…
1人の女性としてアノーラの姿をやきつけた、その余韻が残り続けるラストでした。
これからもよろしくお願いします
たあちゃんさん
共感、コメントありがとうございます。
自分はいつも作品観る時、そう思いながら観てます。この物語、どう着地させるのかなぁと。
もちろん、結末がある程度わかる作品でも良いものは良いとも思ってます。
トミーさん
おはようございます。
いつもありがとうございます。仰るように女性たちの逞しさ感じられました。
搾取されるだけでは終わらないぞ、と。
ロシア側、父親の上にこの母親がいたのか、と思いましたね〜。