劇場公開日 2025年2月28日

「痛み」ANORA アノーラ たまさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5痛み

2025年3月13日
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鑑賞方法:映画館

カンヌ映画祭パルムドール、ゴールデングローブ賞、
アメリカアカデミー賞では作品、監督、主演女優、脚本、編集賞5部門受賞。
他の様々な映画賞でも受賞を重ねた。

監督はレッド・ロケット、フロリダ・プロジェクトなどで
市井のアメリカを描く
今注目される気鋭のショーン・ベイカー。
アメリカの声なき声を掬い上げ、市井に生きる労働者、社会の底辺を生きる人々の物語を描いてきた、と言われる。
今、だからこその時代の傑作を作り上げた。
圧倒される139分。

優れた作品というのは、私たちがある程度考えられる物語の結末を裏切り、思ってもみないところへ連れて行ってくれるものである。
今作、まさに私にとってはそうだった。

NYでストリップダンサーとして働くアノーラが、客として来たロシア富豪の御曹司と知り合い、結婚。しかしロシアからそれに反対、潰しにかかる両親がやってくる。
さて、2人はどうなっていくのか、という物語。

ジャンルでいえばスクリューボールコメディではあるが、
前半部と後半部で、味わいが全く変化する。2人のラブストーリーを騒々しいまでの派手さとスピード感溢れる演出で描く。一転、ロシアコミュニティ、両親がやってくる後半はアニーの焦燥感、哀切感を全面に押し出したロードムービー的展開に変転する。富豪青年イヴァンが逃走するからだ。

かつてならプリティーウーマンのような、豊かな紳士男性が女性を幸せにする、という定型ジャンル映画がヒットした時代もあった。
ロマンティックコメディも全然否定はしないし、面白い作品、良い作品もある。

だが今、プリティーウーマンは過去のものになった。

アノーラが恋するイヴァンは調子が良いだけの、金持ちボンボン息子。ルックスだけはよい。イヴァンの両親はいわゆるセックスワーカーのアノーラを見下し、露骨に差別する。
アノーラは満身創痍になりながらも、最後まで諦めない。

映画はアメリカン・ドリームの幻想をも描いているのか。
いやそもそもそんなものはあったのだろうか…
シンデレラはただのファンタジーなんだろう。
しかし、切り捨てられる物語でもない。

カンヌ審査委員長であったグレタ・ガーウィグが
今作についてハワード・ホークスやエルンスト・ルビッチ
の名前まで出して絶賛した、という。

アノーラ演じるマイキーマディソン。威勢のよいパワフルな演技で魅せつつ、繊細さも存分に表現。素晴らしかった。
後半、イヴァンを共に追うロシア系アメリカ人イゴールを演じるユーリー・ボロソフの眼差し、たたずまいが良い。

アメリカ社会の一断面、いやアメリカだけでなく日本でも同様だろう。
また自身にとっても…。
ショーン・ベイカー監督の人間を真摯に見つめる眼差し、ユーモアと共に社会批評的側面も持つ物語群の、ひとつの到達点となった映画であると思う。

性的描写が多く、R18映画でもあり足が向かないむきもあるかとは思う。
しかしながら、パワフルかつスピード感溢れる演出、人間性の繊細さをユーモア溢れる描写で描いた作品。
一見に値する。得るものは必ずある、と私は思う。

ラストシーンが痛みに満ちている…。

たま
たまさんのコメント
2025年3月22日

asaさん
こちらこそありがとうございます。

賛否ある監督ですが、インディーズ系で、オリジナル作品作るのも大変だと思います。貴重な監督ではないか、と感じています。

たま
asaさんのコメント
2025年3月22日

フォローありがとうございます。
フロリダ・プロジェクトも佳作でした。

asa
たまさんのコメント
2025年3月22日

U-3153さん
どうもありがとうございます。
僕にとりましてはU-3153さんのレビュー、すごく細かいところまで観ておられ、よく考察されてはるなぁと。理解しやすくストレートに伝わり、共感しました。
賛否両論の映画ですが、評価、絶対的なもんでなく、概ね相対的なもんだから。人それぞれ個々人の捉え方ありますよね。
これからも読ませていただきます。
ありがとうございます。

たま
U-3153さんのコメント
2025年3月21日

俺のレビューは感想ですけど、たまさんのは評論になってて、素晴らしいレビューでした。
特に前半と後半の着眼点とか読み応えありました。
あのラストは確かに痛々しかった。

U-3153
たまさんのコメント
2025年3月19日

asaさん
ラストシーンの表現、共感です。
纏ってきたよろいがとけアノーラという1人の人間、女性の姿がたちあらわれてくる。
痛みと共に感動と余韻を残しましたね。

たま
asaさんのコメント
2025年3月19日

共感ありがとうございます。

asa
たまさんのコメント
2025年3月15日

talismanさん
いつもありがとうございます。

たま
たまさんのコメント
2025年3月15日

こちらこそです。いつもありがとうございます。
ほめていただき恐縮です。
彼女の痛み、和らいだのでしょうかね…
1人の女性としてアノーラの姿をやきつけた、その余韻が残り続けるラストでした。

これからもよろしくお願いします

たま
talismanさんのコメント
2025年3月15日

素晴らしいレビューに感動しました

talisman
Mr.C.B.2さんのコメント
2025年3月15日

共感どうもです。
ラスト、あのハグでアノーラの痛みは和らいだのでしょうか。
素晴らしいレビューです。

Mr.C.B.2
たまさんのコメント
2025年3月15日

たあちゃんさん
共感、コメントありがとうございます。
自分はいつも作品観る時、そう思いながら観てます。この物語、どう着地させるのかなぁと。
もちろん、結末がある程度わかる作品でも良いものは良いとも思ってます。

たま
たあちゃんさんのコメント
2025年3月15日

共感していただきありがとうございます。優れた作品は予想を裏切った世界へ連れて行ってくれる‥その通りだと思います!

たあちゃん
たまさんのコメント
2025年3月15日

NOBUさん
おはようございます。読んでくださり
共感、コメント、いつもありがとうございます。
こちらこそです。よろしくお願いします。

たま
たまさんのコメント
2025年3月15日

トミーさん
おはようございます。
いつもありがとうございます。仰るように女性たちの逞しさ感じられました。
搾取されるだけでは終わらないぞ、と。
ロシア側、父親の上にこの母親がいたのか、と思いましたね〜。

たま
NOBUさんのコメント
2025年3月15日

おはようございます。大変に参考になる見事なレビュー拝読しました。又、共感も有難うございます。これからも、宜しくお願いいたします。では。

NOBU
トミーさんのコメント
2025年3月15日

共感ありがとうございます。
搾取される立場ながら、女たちは逞しく男に向き合っている様に感じられました。ロシア母さんは出からマウンティングでしたが・・。

トミー
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