「刺激とリアリズムが交錯する衝撃作――『アノーラ』が映し出す欲望と哀しみ」ANORA アノーラ ガジュマルさんの映画レビュー(感想・評価)
刺激とリアリズムが交錯する衝撃作――『アノーラ』が映し出す欲望と哀しみ
アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞、編集賞の5部門を受賞した話題作『アノーラ』。事前にあらすじを調べずに映画館へ行き、先入観なしで楽しもうと思ったのですが…さすがR18指定、衝撃的な内容が盛りだくさん!
主人公は23歳のトップストリップダンサー・アノーラ。彼女と21歳のロシア人御曹司イヴァン、そして30歳の堅実なボディガード・イゴールという3人の関係が物語を大きく動かします。アメリカとロシア、お金のある人とない人、享楽と堅実さといった対比がうまく描かれていて、それぞれの立場の違いが物語に深みを与えていました。
また、風俗業界のリアルな側面も描かれており、美しく若い女性がトップに立つ一方で、そこに愛は生まれず、真の愛を求める人はその世界に足を踏み入れない——そんな冷酷な現実が浮かび上がります。欲望に満ちた世界の裏にある寂しさや哀しみが、じわじわと心に響く作品でした。
本作は単なる過激なエンタメではなく、現代の若者が直面する問題にも切り込んでいます。TikTokなどの短い動画文化に影響されやすい世代が、ギャンブルや麻薬、お金、セックスといった危険な誘惑にどう引き寄せられてしまうのか。そのリアルな描写には警鐘を鳴らすような力強さがありました。刺激的なストーリーを楽しみつつも、どこか他人事ではないような、生々しいリアリティを感じさせる映画です。
『アノーラ』は、ショーン・ベイカー監督の持ち味が存分に発揮された力作。衝撃的な内容を扱いつつも、ただの刺激的な映画に終わらず、人間の本質や社会の歪みを浮き彫りにする作品でした。刺激を求める人には十分楽しめる映画ですが、その奥にあるメッセージに気づくことができるかどうかで、見え方が変わってくるかもしれません。