劇場公開日 2025年2月28日

「人間の醜さと差別にまみれた世の中の汚さ」ANORA アノーラ コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0人間の醜さと差別にまみれた世の中の汚さ

2025年3月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

現代版『プリティウーマン』的な美しいシンデレラストーリーではなかった。
描くテーマの一つに「セックスワーカー(性産業)の女性の生き方」があったので、本番アリのストリッパー・アローラを主人公に据え、前半は露骨な性交シーン&様々なR18+描写が続く。
大富豪の息子は本当にクソガキで、アローラの気持ちをもてあそぶ。
前半はそいつがバカやってるシーンがずっと続き、単調で眠気を誘発するシーンもあった。
クソガキとその両親、トロスたち監視役の男たちは、アローラを人間として見ていない。
セックスワーカーという職業差別を筆頭に、人種差別、性差別の限りを尽くして、お上品な階級とは思えない下品な振る舞いと命令口調で彼女を追い詰めていく。

しかし、登場人物の中で唯一まともなことを言っているのはアローラだけ。
教育を受けてないから語彙が少なく、使う言葉(セリフ)はスラング&侮蔑語ばかりながら、思いは純粋。
金や身分ではなく、本当の愛を求めていて、お目付け役たちに拘束された当初は、手に入れた愛を守るために動いているのがわかる。
しかし、その愛が幻で、男が真のクズでガキと知ってからは、アローラは自らの尊厳を守るために動いていく。
訪れるのは悲劇。
そして見張りの男が示した好意に、アノーラが示す感謝の仕方がまた切ない。

観客としては、安易な共感はできないものの、どんどんアローラへ好感を抱いていく。
とはいえその好感の正体が、「同情とか上から目線なものではないのか」と逡巡せざるをえないので、観ている人間の心根が試される踏み絵のような存在と気づく。

終わってみれば人間賛歌ではなく、人間の醜さと差別にまみれた世の中の汚さを徹底的に見せつけるという内容でした。
これにアカデミー賞を与えるとは、アメリカが病んでるのではないかと心配になりました。

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コージィ日本犬