劇場公開日 2025年3月28日

「二つの「転換」を成し遂げたエミリア・ペレス。サスペンスあり、ミュージカルあり、重厚な人間ドラマあり」エミリア・ペレス かなさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 二つの「転換」を成し遂げたエミリア・ペレス。サスペンスあり、ミュージカルあり、重厚な人間ドラマあり

2025年8月13日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

驚く

ドキドキ

2024年第77回カンヌ国際映画祭にて
審査員賞と四人の女優(ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフイア・ガスコ ン、セレーナ・ゴメス、アドリアーナ・パス)がそろって女優賞を受賞

2025年第97回アカデミー賞で13部門にノミネートされ
リタ役のゾーイ・サルダナが助演女優賞
歌曲賞を2部門で受賞した。

脚本・監督は多数の受賞歴で知られるフランスの名匠
ジャック・オーディアールです。

スリルあり、重厚な人間ドラマあり。ミュージカルシーンあり
あの手この手で見る者を引き付けるこの映画をぜひ見てください
【映画批評】
 前半部のスリルあふれるシーンの連続と中盤以降の重厚な人間ドラマ。この映画には二つの顔があり、その二つが絶妙につながっていて途切れのないテンポをうみ、ミュージカルシーンで心境を吐露するあたり、あの手この手でスクリーンに引きずり込むジャック・オーディアール監督の手腕は見事だ。

 弁護士リタは、麻薬組織の大ボスマニタスから、性転換手術の依頼を受ける。やむなく引き受けたリタは、世界各地を飛び回りやっと手術を受託した医師と出会う。ここまでの展開は、マニタスからの脅しのような期限遵守、法の目をかいくぐる、医師との何回もの折衝、性転換手術の方法のやりとりなどスリルとミュージカルシーンをあわせて緊迫した映像展開なっていた。

 そして四年後。ロンドンでリタは「性転換」したエミリアと出会う。マニタスは死に、完全に別人女性エミリアになっていた。リタはロンドンで弁護士として活躍していたが、エミリアは、彼女を連れて母国メキシコへ帰り、家族と一緒に暮らすという。

 メキシコに帰国したエミリアは、マニタスの伯母になり、妻と二人の子供と一緒に暮らす。そしてエミリアは、犯罪に巻き込まれて死んだ人や家族に対して、自らがおこなった悪行からまさに「転換」するように人道支援に力を入れる。

 マニタスが手術前リタに言っていた「今の人生はまったく望んでいない自分だ」という言葉。マニタスは性転換のみでなく彼の人生すべてをゲームチェンジする覚悟でいたのだ。ただ一つを除いて。

 すべてを捨てたのに捨てきれなかったものが家族だ。マニタスがエミリアになっても家族を愛していたことで、麻薬組織の大ボスでいること、心が女性であるのに男であることを捨てたかったのだ。マニタスの真実の心情がにじみでていた。

 人道支援する際のパートナー、リタ。エミリアの真実を知るただ一人の人間でありもっとも信頼する友がいつもそばにいてくれる。恋人もできこれからというとき。あることがおきる。ラストシーンは、苦渋と真実の愛の発露とともに消え去るはかなさをかもしだしていた。エミリアは二つの「転換」を成し遂げたのだ。

かな
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