劇場公開日 2025年3月28日

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「そんなことより、音と映像を愉しむ映画である。」エミリア・ペレス えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 そんなことより、音と映像を愉しむ映画である。

2025年4月1日
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鑑賞方法:映画館

楽しい

弁護士リタは、メキシコの麻薬カルテルのボス、マニタスから「女性としての新たな人生を用意してほしい」という極秘の依頼を受ける。リタの完璧な計画により、マニタスは姿を消すことに成功。数年後、イギリスで新たな人生を歩むリタの前に現れたのは、新しい存在として生きるエミリア・ペレスだった…。過去と現在、罪と救済、愛と憎しみが交錯する中、彼女たちの人生が再び動き出す⸺(公式サイトより)。

ミュージカル映画の醍醐味は、役者に語らせると臭くなったり、興ざめしたりするような科白でも音楽と歌詞なら成立するところにあるが、弱点は、現実で突然歌い、踊り出すことはあり得ないところにある。よって、ミュージカル演出を、だれに/どこに/どうやって挟むかが、めちゃくちゃ重要となる。

高い能力を持ちながら守銭奴の上司のもと、社会正義を全うしきれない女性黒人弁護士のリタや、トランスジェンダーに苦しむ麻薬王のマニタス、麻薬王に支配されて生きてきた妻のジェシー等、声にならない声を持つ登場人物にミュージカル演出にはうってつけである(関係ないが、その意味で、「ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」は、ジョーカーもリーも、ミュージカルでなければ届かない「声」の持ち主とは必ずしも言い難いので、いまいち変に感じるのである)。

作中でのミュージカル演出の挟みどころや映像も見事である。1ショットの長回しや照明、音楽、完璧にシンクロしているダンスなど、心の声が巧みに表現されている。特に冒頭のリタの内省や、性転換手術に関してアジア系医師に取材を行う場面、パーティーでリタがテーブルに乗って出席者を糾弾するシーンなどは初めての映像体験と言っていい仕上がりだ。

反面というかなんというか、ストーリー性やメッセージ性、登場人物への共感や投影は二の次である。登場人物が結構わがままで、思いつきや感情のままに突飛な行動に出たりするので感情移入しづらく、ドキドキハラハラや緻密なストーリー展開というわけでもなく、メキシコの社会情勢もあんましピンと来ないので怖い国だな、くらいにしか思えない。そんなことより、音と映像を愉しむ映画である。

ちなみに、主演のカルラ・ソフィア・ガスコン自身が、トランスジェンダー女性であることを公表しており、性別適合手術を受けている。トランスジェンダー俳優として、初めてカンヌ女優賞受賞やアカデミー賞ノミネートを達成する一方で、過去の差別的な発言が掘り起こされ大きな騒動となり、プラマイするとマイナス優勢で終わった。

えすけん
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