「映画と現実の繋がりについて思う」エミリア・ペレス 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
映画と現実の繋がりについて思う
メキシコのマフィアのボスであるマニタス(カルラ・ソフィア・ガスコン)が、実は性同一性障害であり、性別適合手術を企図したところからお話が始まりました。マニタスは、何故か弁護士のリタ(ゾーイ・サルダナ)を雇い、手術に向けた医者捜しなどを任せる。これがお話の本題かと思ったら、リタの準備はスムーズに進み、手術そのものも無事終了。リタは多額の報酬を得てイギリスの上流階級相手に仕事をするイケてる弁護士になる。本題はそこから始まりました。
女性になったマニタスは、エミリア・ペレスと改名し、リタの前に現れる。マフィアのボスという地位や妻子など、大事なものを捨てて性別適合手術を受けたはずが、我が子への未練は断ちがたかったようで、それが後々の悲劇に繋がっていきました。
見所としては、実際に性別適合手術を受けたカルラ・ソフィア・ガスコンの、自らの人生を地で行く役柄を演じたところ。そして何と言ってもカッコ良かったのは、敏腕弁護士であるリタを演じたゾーイ・ザルダナのクールな演技。”性同一性障害”を扱っているので、そうした意味でのメッセージ性が強い作品なのかと思っていましたが、エミリア自身は自らその悩みを乗り越えてあっさりと女性になったので、むしろ作品として伝えたい話ではなく、その点は意外でした。結果、完全な娯楽作品になっていて、また端々に差し込まれたミュージカル調のリズムも心地よく、ストーリー的に最後は悲劇的な部分もあったものの、それはそれでしょうがないと思えるものだったので、ひと言”面白い作品”だったと思いました。
最後に本作の内容とは直接関係ありませんが、エミリアを演じたカルラ・ソフィア・ガスコンの舌禍について。彼女は過去、イスラム嫌悪や人種差別、アカデミー賞における多様性への批判、そして当時すでに本作での共演が決まっていたセレーナ・ゴメス(マニタスの妻ジェシーとして出演)に対するヘイトをツイート(現X)していたことが今年1月下旬に発覚したとか。本人はそのことを謝罪したものの、有力視されていた米国アカデミー賞の作品賞の賞レースでも、評価が一転した模様。
そう言えば、先日観た「教皇選挙」では、教皇の座を狙う”保守派”のテデスコ枢機卿が、イスラム嫌悪や人種差別発言をしてました。この辺りは件のガスコンのツイートと被るもの。
一方で「教皇選挙」では、最終的にリベラル派のベニテス枢機卿が教皇に選出されましたが、彼もメキシコ人という設定でした。しかもベニテス枢機卿は両性具有。内容が全く異なる本作と「教皇選挙」ですが、性的マイノリティ(と言って良いのか分からないけど)を題材にしていたり、メキシコが登場していたりと、テーマは全く異なりながらも、何かと重なる部分が多いことに驚きがあった次第です。いずれにしても、現実の世界と映画の世界は、有機的に繋がっているという証拠なのでしょうね。
そんな訳で、本作の評価は★4.2とします。