「なんでエミリア・ペレスの名前を選んだのかわからんままでしたね」エミリア・ペレス Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
なんでエミリア・ペレスの名前を選んだのかわからんままでしたね
2025.3.29 字幕 MOVIX京都
2024年のフランス映画(132分、G)
原作はボリス・ラゾンの小説『Emilia Pérez』
メキシコのカルテルのボスの性転換を手助けする弁護士を描いたミュージカル演出のスリラー映画
監督はジャック・オーディアール
脚本はジャック・オーディアール&レア・ミシウス&ニコラ・リベッキ&トマ・ビデガン
物語の舞台は、メキシコのとある街
妻の殺害容疑で捕まったガブリエル・メンドーサ(エミリオ・ハッサン)は、弁護団のシナリオとして「妻は自殺だった」で押し通そうと考えていた
そのシナリオはすでに用意されていたもので、裁判はただの茶番でしかなかった
担当弁護士のリタ(ゾーイ・サルダナ)は「自分の能力を活かす職場はここなのか」と自問するようになり、台本すら読めない同僚のベルリンガー(エドゥアルド・アラブロ)に苛立ちを見せていた
その後、裁判は予定通りに終わり、弁護団は祝福ムードになっていた
だが、その空気に耐えられないリタは、適当な理由をつけて、その場から離れることになった
そんな折、彼女の元に一本の電話が入る
見知らぬ男からの電話で、「金持ちになりたいか」を問いかけてくる
そして、「その気があるなら新聞ボックスの前で待て」と言って電話は切れてしまった
物語は、今の生活を変えたいリタが約束の場所に行き、そこで何者かに拉致されるところから動き出す
リタは袋を被されてどこかに連れて行かれ、何台かを乗り換えたのちに電話の声にたどり着いた
電話の主はマニタス・デラ・モンテ(カルラ・ソフィア・ガスコン)で、彼はメキシコの麻薬カルテルを牛耳るボスだった
リタは「自分が指名された理由」がわからなかったが、マニタスは「内容を聞けば承諾とみなす」と言い放つ
そこでリタは、マニタスの依頼を聞くことになるのだが、それが「性転換をして女性になり、本当の自分の人生を生きたい」というものだったのである
映画は、マニタスが性転換手術をして、エミリア・ペレスという名前で人生をやり直す様子が描かれていく
彼の妻ジェシー(セレーナ・ゴメス)と娘のエンジェル(Gaël Murguia-Fur、幼少期:Théo Guarin)、息子のディエゴ(Tirso Pietriga、幼少期:をLucas Varoclier)をスイスの山奥に匿い、自身はロンドンへとその身を移していた
そして、エミリアはあるレストランの会食の場にて、リタと再会することになったのである
本作は、ジャンルが変化するタイプの作品で、前半はクライムスリラー、中盤は社会風刺、後半はメロドラマとなっていて、それらをミュージカル演出によって繋げている感じになっている
楽曲の良さがあるのでミュージカル調は構わないのだが、ジャンルチェンジはどうなんだろうなあと思ってしまう
特に、後半の子どもを巡るグダグダはかなり安めのドラマになっていて、そこで正体をバラすんかい!という感じになっていた
それによって、ジェシーは事態を収集させようとするのだが、その変心の意味がわからない愛人グルタボ(エドガー・ラミレス)は力づくでジェシーを止めようとする
その後は案の定という展開で、さぞかしトランクの中は悲惨だっただろうなあと思ってしまった
場外乱闘も色々とあるようだが、主演助演を誰にするかでピントがズレている気もするし、じゃあカルラ・ソフィア・ガスコンを男優、女優のどちらでノミネートさせるのか問題もあると思う
個人的には、肉体を競い合うものは先天的、それ以外は自認だと考えているので、本作におけるカルラ・ソフィア・ガスコンは助演女優賞で良いと思う
それでも、まさかのゾーイ・サルダナが助演女優賞ノミネートで勝ってしまうというのは不思議だなあと思った
明らかに主演女優の方にノミネートされるべきだと思うのだが、そのあたりのズレもよくわからないままだった
いずれにせよ、主演が助演女優賞を獲るし、脇役と愛人のデュエットソングが映画の代表曲で主題歌賞を獲るというのも不思議に思えた
このあたりのノミネートと選考基準は昔から意味不明だったが、作品賞は無理でしょというのはわかる
映画自体は嫌いではないが、後半に向けて支離滅裂になって大雑把になっていくのは何だかなあと思ってしまった
子どもたちはリタが面倒見るようだけど、法的にはどうなるんだろうかとか、エミリアの恋人のエピファニア(アドリアーナ・パス)もどう関わっていくのかはわからない
このあたりが投げっぱなしになっているので、中盤あたりの奉仕活動から他のマフィアと戦争になってしまうという展開で、その中でエミリアが死ぬ前に妻に伝えるというのでも良かったように思えた