劇場公開日 2025年3月28日

「自分らしく生きる」エミリア・ペレス おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0自分らしく生きる

2025年3月30日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

難しい

アカデミー賞の多くの部門でノミネートされ、助演女優賞と主題歌賞を受賞した本作。あまり注目していた作品ではなかったのですが、受賞作なら観ておかねばと公開2日目に鑑賞してきました。

ストーリーは、メキシコの麻薬カルテルのボス・マニタスから「女性としての人生を用意してほしい」との依頼を受けた弁護士リタは、海外での性別適合手術やその後の生活拠点などを整え、表向きはマニタスを死亡したことにして無事に依頼を成し遂げるが、その4年後、マニタスはエミリア・ペレスと名乗る女性となってリタの前に現れ、今度は「家族とメキシコで暮らしたい」との依頼を受けたリタは、エミリアのために再び力を貸すことになるというもの。

鑑賞後の率直な感想としては、なんとも切なく悲しい気持ちになりました。自分らしく生きるって、簡単そうで難しいです。顔も性別も名前も変えて、新たな人生を手に入れたエミリアですが、代償として支払ったのは大金以上に大切なマニタスだった頃の人生です。初めから覚悟していたとはいえ、手放して初めてその本当の価値と喪失の悲しみを思い知らされたことでしょう。物語の後半、いついかなる時もそこにいるのは半分本当で半分偽りの自分であると嘆くエミリアの心情を思うと、切なさがこみ上げてきます。

それでも彼女を前向きにさせてくれていたのは、自身で立ち上げた行方不明者捜索のための慈善団体、かつての妻と子どもたち、新たな恋人エピファニアの存在。エミリアは、過去の悪行への償い、自身の存在価値の確認、心安らぐ場所づくりを、自らの手で成し遂げていきたかったのかもしれません。その姿は、新たな人生を楽しもうと模索しているようでありながら、捨てきれぬ過去に囚われているようにも見えます。

しかし、ジェシーの行動が歯車を狂わせます。ラストに向けて俄かに高まる緊迫感に、なんとか無事に穏やかな日々を取り戻してほしいと願わずにはいられません。結果論に過ぎませんが、エミリアがジェシーに全てを打ち明けていたら、昔のような穏やかな生活が送れたのではないかと思うと、悲しく切なく胸が締め付けられます。その一方で、エミリアとなって改心したからといって、過去がなかったことになるわけもなく、この結果も自業自得なようにも思います。

自分らしく生きるというのは、人の本質が表れた生き方そのもののように思います。したがって、外見や性別を手術で変えたとしても、人の本質は変わらず、その生き方も大きくは変わらないでしょう。しかし、それが自分自身を変えるきっかけになるなら、意味のある選択だとも思います。でも、そんなことをしなくてもすべての人が自分らしく生きられる、そんな寛容な社会であってほしいと思います。

主演はカルラ・ソフィア・ガスコンで、マニタスからエミリアへの演じ分けがうまく、エミリアの心情に寄り添いたくなります。脇を固めるのは、ゾーイ・サルダナ、アドリアーナ・パス、セレーナ・ゴメス、エドガー・ラミレスら。

おじゃる