「自分の人生を生きるって?」エミリア・ペレス TSさんの映画レビュー(感想・評価)
自分の人生を生きるって?
賞レースで色々と騒ぎになっていた本作。
できるだけ目を塞ぎ、耳を塞いでノイズを入れないようにして公開日に鑑賞。
これは、想定を超えてくる展開。「凄いなあ」というのが率直な感想。
メキシコの麻薬王が性転換手術で別人に成り代わった後、わざわざ身バレかつ殺されるリスクの高いメキシコへ戻り、自分を偽り、自分を死んだと思っている家族と一緒に暮らす。
いつ、どんな形で身バレするのかというハラハラ・ドキドキ感を終始抱かされたまま、物語は進む。スポットライトは、この特異な主人公エミリアにずっと当たっているのかと思っていたが、彼女と関わることで女性達が、それぞれの抑圧からの解放を果たしていく様が描かれている。劇中のミュージカルシーンでもそれがメインテーマのように強調されていた。
真実に蓋をして建前を取り繕う仕事から離れ、自信を取り戻した弁護士リタ。檻の中のような生活から脱出し自由を得たマニタスの妻ジェシー。夫の死により暴力から逃れ愛を知ったエピファニア。
そうか、エミリアが自分を取り戻す(人生をやり直す)と同時に彼女らも自分を取り戻すという物語か。
はっきりと覚えてはいないが、エミリアが、「上にも下にも」「パパにもママにも」「半分、半分」という台詞を歌うようにつぶやいていたのが印象的だった。ジェンダーや生物学的な性を超える、いや、そんなものには囚われないという人間としての存在の宣言や愛の表現か。自分を罠に嵌めたジェシーに、マニタスだった自分が愛していたことを告げるエミリア、それに気づくジェシーの姿も、その表現の1つだろう。
奇抜な設定と最後まで続くスリリングさ。抑制的だがピンポイントでエモーショナルな演出。ジワジワとたたみ掛けて訴えかけてくるメッセージ性。どれも一緒には成立しそうにない要素が1つの作品の中で成立しているのは、監督の手腕か。俳優の演技か。
強く心が動かされるものは無かったが、クオリティの高さを感じずにはいられない作品だった。それだけに、いろいろゴタゴタがあったのは残念だ。もったいない。
リタとエピファニアの会話が印象に残りましたね。友情みたいな繋がりと同性?愛、リタはちょっと寂しいんでしょうね、機会があったら・・の想いもあった気がしました。



