劇場公開日 2024年7月5日

「これはよい映画だ。」郷愁鉄路 台湾、こころの旅 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0これはよい映画だ。

2024年7月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

台湾で「最も美しく寂しい鉄道」と呼ばれた南廻線が電化されるまでを中心に、5年間の歳月を要して取材されたシャオ・ジュイジュン監督によるドキュメンタリー映画。この映画を見ていて、古いものと新しいものが混在し、しかもそれぞれに輝いていた台湾の(シンジュー(新竹)のような)街並みを思い出していた。
「オーライ」など運航にも歴然と残る、元々、台湾に鉄道を敷設した日本の影響。この映画で出てくるDT650蒸気機関車はD51だろうし、CT270型はC57、DR2700型気動車だって東急車輛のステンレス車両に違いない。ただ、日本では、どちらかというと、失われてゆくものを惜しむ気持ち(ノスタルジア)が好まれ、廃線跡が人気を集める。SLの引退や、廃線が伝えられると、それを惜しむ人たちがたくさん押しかける光景を思い出す。この映画でも、似たような場面が出てくるし、鉄道ファン(おたく)も、たくさんいる。
しかし、台湾では、古いもの、そのものが愛されているのではないかと思った。台湾南部の地域を繋ぎ、1991年全通した南廻線は、普段の乗降客が必ずしも多くないのに、線路のつけかえをおこなってまで、2020年電化している。その時、古い線路の方が、電柱がなく景色が美しい、より景観が保存されているという人たちが、たくさん出てくる。失われ、変わってゆくものを惜しむ気持ちと、古いものに価値を見出すこと、僅かな違いだが。
この映画はドキュメンタリーなので、一つ一つのエピソードは、それほど目立たず、ホアン・ユーチン運転手の成長譚くらいか。政治闘争らしい妨害工作も出てきたが、深く追求されることはなかった。シャオ・ジュイジュン監督は、インタビューで「この映画の舞台は鉄道だが、テーマは人間だ」と述べている。古いものを担ってきた人間にこそ、思いを馳せているだろう。

詠み人知らず