「猿の復讐」モンキーマン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
猿の復讐
『スラムドッグ$ミリオネア』だけでキャリアが終わるかと思われたデヴ・パテルだが、何の何の堅実なキャリア続く。
コケたけど『エアベンダー』『チャッピー』などのハリウッド大作や『マリーゴールド・ホテル』『ホテル・ムンバイ』『グリーン・ナイト』などの良作に出演。『LION/ライオン』ではアカデミー賞ノミネート。決して派手ではないけど、あのインドのスラム街の青年の確かな活躍ぶりは見ていて何だか嬉しい。
そんな彼が監督デビュー。しかも、アクション映画なのが意外。
しかし、氾濫するアクションの類いではない。パテルの才気やインドの社会問題・神話などを盛り込んだ意欲作。
犯罪蔓延るインドの架空の町。そこで夜な夜な行われる闇の地下ファイトクラブ。
一人の男キッドは猿のマスクを被り、殴られ屋として生計を立てていた。いつしか“モンキーマン”と呼ばれるように。
孤独とどん底の中、ある人物に遭遇する。警察幹部と宗教指導者。
幼い頃村に住んでいたが、この二人によって村は焼かれ、母親も殺されていた。
キッドは壮絶な復讐に身を投じていく…。
『ジョン・ウィック』の製作陣が手掛けただけあって、さながらそのインド版。
話はシンプルな復讐劇ながら、アクションのイメージ無かったパテルが怒涛のアクションを魅せる。
路地裏やトイレ、厨房、エレベーターの中など薄汚い空間や狭い場所で繰り広げられるアクションはいずれも生々しく、痛々しく激しい。
キッドは武道の達人とかプロフェッショナルではない。あくまで見世物ファイターで、しかも殴られ役。敵との闘いもボロボロに傷付く。
一度は敗退。インド奥地のコミュニティに助けられ、修行。
覚醒してからのクライマックスは、強い事強い事!
この敗退~修行~覚醒はアジアンテイスト。
『ジョン・ウィック』オマージュは言うまでもなく。台詞にも出てくるし、ビシッとしたスーツ姿で闘う。
『ジョン・ウィック』だけじゃなく、『ザ・レイド』からも影響受けたらしく、確かに色々と彷彿。トイレ内での闘いは『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』からであろう。手持ちカメラのような揺れ揺れの映像は『ボーン』シリーズ。
どん底から這い上がろうとする様は自身の出世先である『スラムドッグ$ミリオネア』のようでもある。
パテルが自分の好きなもの、やりたいものを全てぶち込んだ渾身作。8年の歳月をかけて。
元々はパテルが監督する予定ではなく、『チャッピー』で組んだニール・ブロムカンプにオファー。が、君自身で作った方がいい、と言われて監督も兼任。
これは正解。インド系のパテル自身でなかったら、インドの社会や神話に精通した物語は醸し出せなかったろう。
元々は劇場公開ではなく、配信オンリー。が、ジョーダン・ピールが作品に惚れ込み、彼のプロデュースで劇場公開へ。
これも正解。作品はスマッシュヒットとなり、初監督のパテルの手腕は批評家から絶賛された。
まるでインドの神々に微笑まれたような。こういう幸運も才なのだ。
ラスト、死んだかに思えるが…、明確に描かれた訳ではない。
せっかくのキャラ、一回きりは惜しい。
それに、パテルだってまたやりたいであろう。
インドの神話や神々も多少なりともインド映画を見ておいて良かった。見てなかったら“シヴァ神”とか分からなかったろう。
キッドは猿のマスクを被り復讐に。モチーフは猿神ハヌマーン。これもまた。
その昔、円谷プロとタイ合作の『ウルトラ6兄弟vs怪獣軍団』という異色のウルトラマン映画があり、その主役ヒーローがハヌマーン。インドの神だが、タイでも崇拝されているとか。
権利問題で今はもう見られない幻の作品で、珍品。VHSで見た幼少時の記憶が鑑賞の助けになるとは…。
これも猿神ハヌマーンのお導きか…?