教皇選挙のレビュー・感想・評価
全187件中、121~140件目を表示
とどめを刺された気分
病み上がりで本調子ではなかったものの、やはり観ないわけにはいかない本作。飛び石連休に挟まれた平日の今日、TOHOシネマズシャンテ9時20分からの回は案の定結構な客入りです。ただ、上映中のスマホや私語、離席も多かったりとやや集中力の欠いた状況もチラホラ。。気を取られないよう、必死にストーリー展開を追いかけます。何と言っても本作は第97回アカデミー賞において「脚色賞受賞」の本格ミステリ映画。物語の前半ではあれやこれやと放り込まれるエピソードに「これは伏線だな」と気づくものの、中盤以降の回収の凄まじさで劇中の教皇選挙もどんどんと混乱をきたしていきます。或いは、その登場から謎めいていて意味深な存在のキャラクターに「これはひょっとしたら?」なんて思わなくもないのですが、そこはやはり脚色賞受賞だけあって「巧い」と思わせる「これでもか」な展開。解ったようなつもりの自分の浅はかさに「参りました」と言わざるを得ません。そして更に、最後に明かされる本作最大のサプライズは唖然の一言。正にとどめを刺された気分です。
信頼のおける名優揃いでドラマとしての見応えは勿論のこと、衣装デザイン賞、美術賞ノミネートも納得なルックは本格的で、いつしかフィクションであることを忘れかけてバチカンのことが心配になりますが、言い方を変えればそれだけこの世界観に入り込んで夢中になります。最近のニュースで「本物」の教皇フランシスコの病状が報じられ、「コンクラーヴェの執行も遠くないのか?」と不埒なことが頭をよぎりましたが、最新のニュースでは快方に向かっているとのこと。と、こんな蛇足はジョン・リスゴーにがっかりされ兼ねませんのでこの辺で。
小難しそうと思って敬遠される方もいそうな題材ですが、ストーリーはミステリとして明解に面白い作品に仕上がっています。堅い一本です。
見る人を選ぶ作品ですね。まさに「根競べ」
期待を裏切りません
謎に包まれたコンクラーベの内情を覗き見できると、公開前からかなり楽しみにしていました。
システィナ礼拝堂に集う、真紅の法衣をまとった枢機卿たちを俯瞰で捉えたショットがゾクゾクするほど美しく、それだけで観てよかったと思えました。
(礼拝堂は本物ではなくセットですが)
同じローマ・カソリック教会に仕える枢機卿たちとはいえ、それぞれ言語や人種、さらに信条(保守か改革か)も異なる。
そこには選挙選さながらの騙し合いや陰謀策謀がうごめく、というストーリーはフィクションとはいえ真実味がありました。
最後の最後まで先の読めない展開はミステリとして十分楽しめましたが、イスラム教との対立問題や多様性にどう向き合うか、など同時代性への目配りも欠かさない脚本にうなりました。
ベテラン俳優陣たちの静かで熱い演技合戦もすばらしく、自身の信仰とコンクラーベの政治的側面の衝突に苦悩する枢機卿を演じたレイフ・ファインズにはオスカーをあげたかったです。
観る上での注意点。
それほど難しい映画ではありませんが、登場人物の顔と名前が一致していないと中盤からややこんがらがるので、序盤から気を抜かずに見てください。
あと、多言語が飛び交うので、それぞれの人物の主言語がわかれば、背景をもっと楽しめそうです。
私は英語とイタリア語しか判別できず。
ちなみに、英語ではコンクラーベ、じゃなくて、コンクレーヴ、と発音するのですね。
重厚な人間ドラマ、ミステリーとしでも楽しめた
アンマッチの美しさ
面白かった。「コンクラーベ」のことをリアルではじめて知った時、日本語の「根くらべ」に似てるし、やってることも根くらべっぽいな~、おもしろ! って思ったので、その詳細がわかるというのにテンションあがった。
ストーリーも面白いのだが、映像が本当に美麗で、すべてのシーンが、まるでセンスの良い絵ハガキを見てるようだった。整理されてシンプルな赤、白、緑、黄色のコントラスト、幾何学的な構図、静謐な空気感…。良かった! 大きな画面で鑑賞するのが良いと思う。
聖域におけるドロドロした権力闘争なんだけど、聖職者どうしの権力闘争というところで、彼らが人間的な悩みや信仰心に悩んでいるところが面白い。醜さと神聖さのアンマッチ具合が、バチカンの古めかしい儀式や建物の中に、スマホやパソコンや焼却用の機械パネルみたいなものがあるアンマッチと重なってみえる。
また、「伝統・保守・男尊女卑・排他性」VS「革新・自由・多様性・寛容」の対立でストーリーが進行することからも、あらゆるところにアンマッチが顔を出す。
最後は意外な結末になり、驚いた。
個人の勝手な解釈かもしれないがローレンスとベニテスの関係に対して、洗礼者ヨハネとイエスキリストの関係を連想した。
洗礼者ヨハネは、新約聖書においてイエス・キリストの到来を予言し、彼に道を譲る存在として描かれる。ローレンスは、コンクラーベを取り仕切る立場でありながら、最終的に彼のために道を開く役割を果たす。ローレンス自身が「ヨハネ」という教皇名を選ぼうとしていたことは、この解釈を裏付ける。
イエスは、ユダヤ教の伝統的な価値観を超え、罪人や社会の周縁にいる人々を受け入れる新しい宗教的ビジョンを提示した。ベニテスは インターセックスというアイデンティティを持ちながらも、教皇という伝統的な地位に就くことで、カトリック教会の未来に新たな可能性をもたらした。彼の存在自体が、従来の教会の枠組みを超えた革新を象徴している。
また、イエスが「神の子」でありながらも人間としての苦しみを経験したように、ベニテスも自身の性自認に関する苦悩を抱えながら、それを乗り越えて選ばれる存在となっている。
新約聖書では、洗礼者ヨハネがイエスに洗礼を授ける場面があり、それがイエスの公的な使命の始まりを象徴する。映画では、ローレンスがベニテスを最終的に受け入れ、彼が教皇になることを承認する場面がある。このとき、旧教皇がベニテスのインターセックスのことを知ったうえで枢機卿に任命していることをローレンスは確認している。この構図は、ヨハネがイエスを認め、「彼こそが選ばれた者である」と宣言する流れと似ている。ローレンスー洗礼者ヨハネ、ベニテスーイエス、旧教皇ー父なる神、という構図になっているように見える。
この映画は観る者によっていろいろな感じ方を許容する。そこが面白い。
枢機卿の息づかいを感じる。そして、最後に知る本当の真実。
雰囲気、静けさや空気感を非常に大事にした演出でした。
役者の息づかいをフルに使って、感情表現をするのは、なかなか珍しい気がします。
最初、途中、最後の息づかいの違いとか、本当によく作ってます。
そして脚本。
色々なところに、伏線がありましたが、これは、予想できなかった・・・。
途中のアクシデントと同様、斜め45度の高いところから突然、ふってくるような感覚。
この脚本が賞賛される理由も、昨今の事情から、なんとなく分かる気がします。
後から、思い返すと、
前の方が運ばれるシーンが長かった。
途中、眼をひらいた幻影が一瞬出たり、我々に存在を意識させていた。
なぜ、彼は辞めることを許されず、残されたのか、
なぜ、彼はローマに呼び出す相談をされたのか、
なぜ、あの方は、ずっと秘密裏にされたのか、
こんなところを考えると、語られずとも、事実が見えてくる気がします。
私がコンクラーベに参加したら、きっと、同じように票を入れます。
これが、計算されたチェス盤の上だと、気がついてもね。
全てはポープの掌の上
見事なまでに渋いキャストしか出てこないのに
セットと衣装と小道具の豪華さに加えて
色彩設計と構図が美し過ぎてため息しか出ない。
オレって枯れ専だっけ?って思うくらい出てくるジジイが全部オシャレでカッコ良くて釘付けだし、単調になりがちな室内劇のストーリーもBGMやイベントで飽きさせないような工夫はされているんだけど…寝ちゃう人は寝ちゃうかも。でも寝息かと思ったら劇中の息遣いだったりするし。
トランプ大統領のポリコレ全廃宣言前の映画界の政治的文化的トレンドをこれでもかってくらい詰め込んであるストーリーは、この地位まで上り詰める聖職者が清廉潔白であるわけがないという観客の期待通り、有力候補が失脚していく様子をイヒヒと楽しむ映画なのかと思ったり。
ストーリーを回していくローレンス枢機卿は「教皇は私にこの選挙を仕切らせたかった」と薄々気づいてはいたけど、このコンクラーベを陰で操っていたのは間違いなく亡くなったローマ教皇。全ての伏線を貼り巡らせて、じゃあローレンス頼んだよって。お前のことだ、規則を破って寝室だって漁るだろ?あとお前は教皇になろうなんて野心は無いだろ?ってポープの千里眼が過ぎるけど、一瞬ジョン(まあイギリス人だしね)って教皇名考えてたりして危ういバランスは最後まで続くわね。
................こっからネタバレ?.................
教皇名といえばイノケンティウスだけど11世以外はそこらの王様より権力持ってて好戦的でゴミみたいな教皇が多いもんなあ。なんでこの名前を選んだか?まあ調べてみてよ面白いから。
あとやっぱ神様はいるんだよ的な描写は、唯一神よりも明らかに自然神っぽかったわね。
それではハバナイスムービー!
知らない世界を垣間見る
枢機卿も人間だった。
教皇の秘蔵っ子
脚本賞受賞がなるほどと頷ける、近年の大収穫。日本的な例えなら魑魅魍魎が跋扈する伏魔殿。陰謀渦まく密室劇。居並ぶレッドハット(枢機卿)の佇まいは圧巻で絵面は良いものの、実際はムッとする加齢臭が充満した空間である。
物語は、当初から、選挙人リストには無く、最後に滑り込んで来たベニテスを逆転候補だと匂わせる。そして、次々と馬脚を露わし脱落してゆく候補者達を見せながら主題を語らせる。
我々は“理想”に仕える人間であって、”理想”そのものではない。
ある意味、開き直りに聞こえる言葉だが、亡くなった教皇は、そこに至る過程まで、全てを読んでいた。生前、誰のことも信用せず、密かに枢機卿全員の身上調査を行い、コンクラーベのシナリオを作っていたのだ。
辞任の申し出をしてきたローレンスは信用に足るとして、辞任は却下で、これを仕切り役に抜擢し、要所要所でシスターアグネスを補佐役に廻しながら、ベニテスの名言シーンへ誘導してゆくというものだ。
教皇は”彼“ベニテスの素性を知ったうえで選挙に送りこんだ、言わば、秘蔵っ子である。
ラスト、ベニテスの告白は二段落ちで、ヤラレタ感が強い。池から這い出てきた亀も教皇のお気に入りだったと得心するローレンスの表情は、久し振りに野外の風にあたった窓辺で、心無しかほのぼのとして見えた。
ちょい眠い
ネタバレはないと思うけど
考え方次第。
システィーナ礼拝堂は
好みではないけど
壁画の青を間近に見れてよかった
特に追い払われもしなかったところも、
ありがたかったな。
ラピスラズリの絵の具で書かれたとか?
ゴツゴツしてるような青だったかな
とにかく青を見つめてると
昔の人の気持ちが、見えそうな気がした。
昔からの儀式を見れたし
人の営みなんだなと思う。
神なんてわからないけど
ナンパされたいと思ってたら
イタリアのぽっちゃりした
少年が、ベーネと言ってくれたから
ナンパしてくれるんだと思って
僕の勘違いだと思うけど
絆ができたんだと思う。
少年が大きくなって、良い人を結婚してくれたら良いな。
そんなんで良いなと思った。
彼との純粋な気持ちは、女性とは難しい
この気持ちを、簡単には共有できない。
君の笑顔は変わらないのに。
多分、僕が弱いからだと思う。
体を傷つけないところは共感できた。
僕も
おじちゃん、おばあちゃんから
もらった体をあたるなと言われて育ったから
仕事に支障がでた、多汗症も
手術は勧められても、拒否したし。
ただ、
中絶は女性に委ねてと、個人的には思ってる派
イタリアの装飾は
日本にない感性なので、毎回すごいなと思う。
そんな指輪あるんだとか。
見てて楽しい。
場外にすっ飛ばされた気分
穢れたバチカンを‼️❓無難に‼️❓処理した最低のアカデミー賞の脚本賞の記念碑‼️
あゝ、バチカンの秘部は、少年を性加害したことにあるのに、現実を避けて、こんな茶番劇、これがアカデミー賞の脚本なら蝕まれている、ウィンウィンなんでしょうねハリウッドらしい見届けましたよ、両生具有の教皇なんてなんの衝撃なんでしょう、最低の映画を観て、最高の評価をしました、たまたま地下鉄サリンの報道ビデオの再現を見て二千年くらいの宗教は危険である事くらい承知してますよ、ありがとうございます😊😭ー
現代に語りかけている作品
ドキッ!男だらけの根比べ大会
おじさん達がむさ苦しい閉鎖空間で根比べをする場所といえばサウナかシスティーナ礼拝堂と相場が決まっている。
本作では後者のほうが描かれた。
様々な思惑が飛び交い権謀術数が駆け巡る密室劇。
物語はおじさん同士の会話だけで9割がた進んでいくが、演出がとてもキレているので全く退屈しない。
ほどほどに謎解き的要素もあるのがアクセントになっている。
罪を悔いる者、罪を重ねる者、罪とは何かを問う者…権力を渇望する者、権力に失望した者…
おじさん達の群像劇として見てもとても楽しかった。
さて、物語の終盤、ある出来事によって、閉鎖されて空気が澱んでいたシスティーナ礼拝堂に外の空気が入ってくる。
そしてそこから物語は衝撃のラストへと猛烈に突き進んでいく。
おじさん達が辿り着いた答えはなんだったのか?ぜひその目で確かめてほしい。
聖職者とて抗えぬ"人"としての性
最後の最後に知る真実にビックリ仰天
これは選挙という名の戦争‼️
それがカトリック教会のトップであるローマ教皇を選出する選挙であっても、何らフツーの選挙戦と変わりません‼️裏では恐ろしい人間たちの金と欲、陰謀、差別、スキャンダル、妬みや嫉妬といった人間の感情、闇が蔓延しています‼️映画は有力候補者たちの人間ドラマを挟みながらの数回の投票によって構成され、それまで有力とされていた者が、スキャンダルなどでアッという間に転落していく様が、実力派俳優陣の素晴らしい演技によって展開‼️ほんとにゾクゾクさせられるし、身の毛がよだちます‼️やっぱりレイフ・ファインズ、ジョン・リスゴー、スタンリー・トゥッチ、イザベラ・ロッセリーニは上手いですね‼️そして衝撃のラスト‼️ここでも多様性‼️レイフ・ファインズへの感情移入、凄まじいです‼️
それは新たなるカトリック教会の聖なる扉を開く鍵となるのか
偶然にも現教皇フランシスコの容体が危ぶまれている時期でもあり、また25年ごとに行われるカトリックの「聖年」にも当たる時期に公開されるというとてもタイムリーな作品。
本作はミステリー作品としてのその娯楽性、そして社会派作品としてのメッセージ性に富んだ内容で最初から最後まで緊張感が途切れない作品に仕上がっている。
教皇の急逝により使徒座空位の状態となったバチカンではコンクラーベ開催のために世界中から枢機卿が集結する。100人余りの枢機卿たちの互選による選挙の運営を任せられた首席枢機卿のローレンスは次期教皇としてリベラル派のベリーニを推すのだが、陰謀渦巻く教皇庁ではコンクラーベの行方は二転三転する。選挙の行方の鍵を握るのはいったい誰か。
死去した教皇が秘密裏に枢機卿に任命していたメキシコ人のベニテスは謎多き人物。それに加えて教皇の後釜を虎視眈々と狙うトランブレ、黒人初の教皇かと目されるアディエミ、過激な排他的思想を持つ保守派のテデスコ、リベラル派の人格者だが消極的なベリーニなどなど、有力候補たちの誰が選ばれるのかその行方がスリリングに描かれる。
当然候補者たちは立候補制ではなく互選で選ばれるため教皇の座を望まないローレンスにも票が入る。その票を入れたのがベニテスであるという。ローレンスは困惑するが、一度目の選挙では得票数が誰も届かないため決着はつかない。
有力候補の一人アディエミが食堂でシスターとトラブルを起こすのを皆が目撃する。彼は過去に戒律を破り彼女と関係を持ち子供まで設けていたのだ。そのうわさが流れると彼は有力候補からたちまち脱落する。それを仕組んだのはトランブレだった。その上トランブレの選挙買収の事実まで明らかとなる。ベリーニに見切りをつけたローレンスたちはテデスコを教皇にするくらいならトランブレで妥協するしかないと考えていただけに彼のスキャンダルによる脱落は大きかった。
しかし、意外なダークホースが現れる。閉ざされた教皇庁の外では過激派の爆弾テロが各地で起きていてこのコンクラーベがなされているシスティーナ礼拝堂にもその余波が生じ、爆発で窓が吹き飛ばされてしまう。
その有様を見たテデスコはこれを機会とばかりに大演説をぶつ。リベラル派の相対主義がこのような事態を招いたと、今こそ異教徒を排斥するために戦うべきだと。
危うく彼の思惑通りにその場が流されようとしたときにベニテスが口を開く。戦うべき敵とは誰なのか、戦うべき敵とは自分自身の中にある他者を憎むという心を言うのではないかと。
戦火にさらされた地で長く布教活動を行ってきた彼の説く言葉に皆が諭されテデスコの思惑は見事に打ち砕かれる。そうして選ばれる新教皇。しかし彼にはやはり秘密があった。
神の代理人とも呼ばれるカトリック教会の最高指導者でもありバチカンという国家の国家元首でもある教皇を選ぶ選挙を描いた本作。そこで描かれる様はけして聖なるものではなく俗世間のものと何ら変わらぬ陰謀や駆け引きに満ち溢れたものだった。
金で票を買おうとする者、スキャンダルで政敵を陥れようとする者、不安を煽り立てて敵を作り自分に支持を集めようとする者。これはまさに現在の世界の縮図でもある。特にアメリカや欧州諸国で近年みられる政治状況がそのままこの教皇選挙に反映されていて実に社会風刺のきいた作品となっている。
ミステリーとしてもよくできていて、特に作品前半から傍観者然としていたローレンスがその意思に反して選ばれるのではないかと観客を誘導する。
教皇の死に涙するローレンスの姿から彼らが特別な関係にあったのではないかと思わせる。そして教皇が秘密裏に枢機卿に任命していたベニテスによる彼への投票。有力候補のアディエミのスキャンダルを仕組んだ黒幕が教皇であったことなどからすべては死んだ教皇によりローレンスの新教皇選出が仕組まれていたのではと観客に思わせてのラストのどんでん返し。
しかしこの結末には納得させられた。前半の司教による説教でシスターたちへの見え透いたフォローに対して皮肉な笑みを浮かべるシスターアグネスの姿。同じく中盤での見えない存在の我々でも神は目と耳を与えてくださったという彼女の言葉。カトリックで長年あからさまになされてきた女性差別が伏線として描かれている。
そしてこれはたまたまだろうが昨年現教皇のフランシスコが大学の抗議でジェンダー平等を否定するような発言も物議をかもした。
それらを加味すれば最終的に性別にとらわれない教皇の誕生というのも予測できないことではなかったのかもしれない。
2000年の歴史を持つカトリック教会、幾多の試練や改革を経てもなお古い体質は抜けきれない。本作で描かれた黒人の枢機卿の存在もブラックライブズマターを経て初めて認められた。女性など何年教会に仕えても聖職者にはなれない。女性の地位向上を目指してきたフランシスコ教皇でさえも前述の通り凝り固まった考えがいまだ抜けきれない。
自由と平等がキリスト教の教えであるはずが家父長制的な思想からはいまだ脱却できないでいる。
テロによる爆発で吹き飛ばされた窓からシスティーナ礼拝堂の壁面に光が差すシーンが印象的だった。真の自由と平等の光がこのカトリック教会に差す日が来るのはまだまだ遠い先のように思えた。それがテロのような暴力によらずに。
現実にはベニテスのようなインターセックスの人間が選ばれることはまだまだないだろう。本作では選挙が終了した後に彼の秘密が判明するがそれが選挙が決する前なら当然ローレンスにより候補から脱落させられたであろう。
数人のシスターたちが開かれた扉から駆け出す姿を窓から見下ろすローレンスのシーンで作品は終わる。25年周期で行われる「聖年」の儀式では教皇が普段は閉ざされた聖なる扉を開くのだという。
それにより信者たちは免償を受け、奴隷は解放されるという聖年の儀式。カトリックにおいて女性やマイノリティが真に解放されるのはいつの日か。
ちなみに教皇に選ばれたベニテスが教皇名に選んだインノケンティウスという名前に引っかかった。歴代教皇に多い名ではあるがその大半が悪名高い教皇として知られる。
インノケンティウス4世は十字軍の遠征を繰り返し、果ては当初の聖地奪還という目的を見失い侵略戦争にまで発展してしまった。また周囲の意に介さない者たちを次々と破門し教皇庁の権威を最大にした人間でもある。
またインノケンティウス8世などは異端審問、魔女狩りを大きくすすめた人物でもある。ベニテスがこの名を語った時にローレンスがけげんな表情を一瞬浮かべたのもわかる気がする。
本作はインターセックスの人間が教皇に選出されたという単にポリコレを意識した作品というだけでなく、やはりいまだ世界に大きな影響力を持つ教皇選挙の危うさをも描いているように感じた。
アメリカという世界の超大国においてもキリスト教ロビーの影響力は絶大だ。そんな世界に多大な影響力を持つカトリック教会の教皇が密室で選ばれてることの恐怖を少なからず感じさせもした。
老眼と鼻息
ローマ教皇が逝去、後継を巡り教皇選挙が開催、候補者達の駆け引き・陰謀・スキャンダルうごめく選挙の舞台裏と内幕を描いたミステリー。
物語は密室劇に近い。サスペンス風の権力争いと一人の首席枢機卿の思惑を中心に描かれる。まずは知られざるカトリック教会の内幕に注目した切り口に感心。登場人物やシーンも限定的だ。堅苦しい映画かと思ったが、思いのほかエンタメ性が高く、鑑賞後は、日本だと三谷幸喜のドラマの題材だな、と感じた。
勝手解釈は、眼鏡と息遣い。教皇候補者がそれなり高位高齢の為、老眼は違和感無いが、主人公ローレンスは真実を知ろうとどこからか眼鏡を取り出しエビデンスをチェックする。物語のポイントには真実を見る眼鏡が活躍するのだ。
あと、気になる息遣い。法則性を気にしていたが、結局分からなかった。ただ、普段静寂感のある教会内もこの時ばかりは騒がしい。そんな中、この呼吸音演出は観客がローレンスに没入するのに役立っていると感じた。少なくとも彼の鼻息が聞こえると自然と彼に集中していた。
ややもすれば、面白く無くなる題材だが、事件や論理はシンプル、感情や感覚はナイーブにした脚色は見事、大衆性の高い映画として成立している。
喰わず嫌いにならずに気軽に観られる作品だと思います。絵画のような荘厳な教会施設を観るのも、息遣いを聞き取るのも、劇場向けかなと思います。是非、映画館でお楽しください!
全187件中、121~140件目を表示