教皇選挙のレビュー・感想・評価
全738件中、601~620件目を表示
コンクラーベの室内に風が流れる
静やかで、息遣いや老眼鏡をかける音などが大きく感じるような空間だった。それは厳かであり、排他的でもあった。
そこに、小さな風が吹く。完全に閉じているはずのコンクラーベに、風穴が空いた描写は、宗教性を感じた。
しかしこの作品は、見る人によって感想が大きく変わりそうだと感じた。
敬虔あるいはそうではなくともクリスチャンが文化や思想に根付いてる人と、そうでない人でも違うだろう。またこの作品のバランスは、保守もリベラルもどちらも評価しづらそうだな、と感じた。昨今のその手の目線で評論しなければならない立場の人ほど、評価をすることをし難いのかもしれない。正直、クリスチャンが文化思想に根付いておらず、中庸な人の方が色んなものに引きずられずに最もこの作品を楽しめるのではないか、とすら感じた。
私の目線では、聖職者の枠を超えるような悪がいるわけではなく、しかし否定したいようなことはそっと否定され、否定したくないものはちゃんとそこに在って、何か大きな改革が起きた訳ではなく、しかし少しだけ窓が空いた気がしなくもない。一貫した温度感と質感が、とても良い作品だった。
ミケランジェロだって本当はやりたくなかった
ローマ・カトリックのトップ(教皇)を選出するための会合(コンクラーベ)を舞台にした小説の映画化。
教皇からの信任厚く、他の枢機卿からも一目置かれるトマス・ローレンス主席枢機卿(猊下と呼ばれていたけど、教皇は何て呼ばれてるんだろう)。
上昇志向も権力欲もない彼は辞任を申し出るも許されず、教皇の急死によって開かれるコンクラーベを自分が執り仕切ることに。
コンクラーベの会場はシスティーナ礼拝堂。有名な祭壇画『最後の審判』が映し出されるが、焦点は合っていない。
設営する神父を見上げるようなアングルでカメラが旋回するが、決して他の天井画を捉えない。あとで考えると、閉鎖性、秘匿性の高いカトリックの暗喩にもみえる。
コンクラーベは上位得票者による決選投票などなく、誰かが有効得票に達するまで延々繰り返されるという、冗談みたいだがまさしく根競べ。
決着がつかずに焦燥感を募らせるトマスは『最後の審判』にたびたび視線を向けるが、彼の主観で映し出されるのは荘厳に描かれたイエス再臨や美しい聖母ではなく、苦悶する人間を地獄へと引き摺り込もうとする醜怪な悪魔。
神に最も近い場所に仕えながら、他人を蹴落としてでも玉座を勝ち取ろうとする聖職者の内面を象徴しているかのよう。
ある媒体によると、原作者はフランシスコ現教皇選任の際のコンクラーベから想を得て起稿したそうだが、シチュエーションはどちらかといえばヨハネ・パウロ二世の時の方に近い(現教皇の前任は生前退位)。
有力候補が次々と脱落するなか、トマスはリベラル派の仲間から教皇になるよう促され「自分はジョン(ヨハネ)を名乗る」と決意する(因みに、英語圏でのヨハネ・パウロ二世の呼び方はジョン・ポール・セカンド)。
しかし、物語は予想外の結末に…。
急逝した前教皇の人間性やポリシーが不明なので、個人的にはいろいろ邪推したくなる。
対抗馬のアディエミと関係を持った修道女を呼び寄せたトランブレは、前教皇の指示だったと主張し、前教皇が彼を解任しようとした理由もほかにあることが発覚。でも亡くなった前教皇から証言を得られる訳もなく、真相は藪の中。
もし本当にアディエミの教皇就任を阻みたい意向を前教皇が持っていたとすれば、それはスキャンダルゆえなのか、それとも有色人種だからか。
メキシコ出身のベニテスの容貌はメスティーソ(白人との混血)というより、純粋な先住民に近い。
しかも彼の場合、非白人というだけでなく、身体の特異性は厳格なカトリックの立場からみればキメラ(怪物)のようなもの。
彼に紛争地ばかり担当させていたのは、バチカンから遠ざけたかっただけ?それとも、偶発的な排除を期待していたから?!
現実のバチカンも保守派とリベラル派のせめぎ合いが厳しいと聞く。
そんな中、リベラル派の現教皇は健康が不安視され、本当にコンクラーベが開催される可能性もかなり濃厚。
次はどんな人物が教皇の座に着くのか。
システィーナ礼拝堂の天井画や祭壇画を製作したミケランジェロは彫刻家としての自負が強く、絵画至上主義のダ・ヴィンチと対立した話は有名。
礼拝堂の絵画も当時の教皇に無理強いされてやむを得ず引き受けている。
作中のトマスもベニテスも本来なら教皇になりたくなかった人物。そのことを踏まえると、どんな人物が教皇にふさわしいかは、システィーナ礼拝堂自体が示唆しているように思えてくる。
ほぼ対話だけで成立する120分の映画を、熟練の俳優陣が弛緩なく見せてくれる。
予備知識がなくても十分堪能できる作品。
■追記■
猊下は本来、仏教用語で、日本なら座主や管長といったトップ中のトップにしか使われない敬称。
NO.2のトマスが猊下と呼ばれていることに違和感があったので、調べてみたら教皇には「聖下」という特別な敬称が用いられるのが一般的とのことでした。
シンプルイズベスト
原作者のロバート・ハリスはNetflix配給「2人のローマ教皇」で描かれた2013の教皇選挙にインスパイアされたフィクションだそうで、同じくNetflix配給「西部戦線異常なし」のエドワード・ベルガー監督が手掛けたということで国境のないNetflixだからこそ描けたかような教皇選挙の舞台裏を短期間で2本も観れて本作で本当にお腹いっぱいになれました。
脚本を手掛けたのは2重スパイを暴く難解映画「裏切りのサーカス」の脚本家ピーター・ストローハーン。本作「教皇選挙」でアカデミー脚色賞を受賞!
「裏切りのサーカス」でも会議室という閉ざされた部屋の中で、2重スパイをどう暴いていくかという濃密な密室劇だったのに対し、本作でもやはり選挙が行なわれるシスティーナ礼拝堂という隔離された空間の中でのサスペンスとなっている。
礼拝堂から一歩も出ない。聖職者以外は一切出てこない。色もモノトーンと赤のみという徹底したミニマルなつくりで(差し色に教皇の指輪の純金"金色"をタイトルに使用。)とにかくデザインが洗練されていてカッコいい。
後半、いざローレンスが教皇に選ばれるか?!というところで突如教会の高窓が爆破されるという事件が発生。選挙は仕切り直しになり、その間トランプ大統領的なレイシストであるテデスコ枢機卿にトドメを刺すベニテス枢機卿の感動的なスピーチにより選挙結果が覆ってしまう。
教皇の地位を望まぬものが選出されるように導かれるような、神の存在を薄っすらと感じさせるつくりになっていた。
ラストで前教皇の象徴でもあった亀を池に連れ戻すという描写は、引退してバチカンを去ろうとを考えていたローレンス枢機卿が結局は重大な秘密を抱える歴代教皇と同じような重荷を背負ってしまい、結局はバチカンから逃れられない。という描写だったと思います。
ローレンス枢機卿を演じたレイフ・ファインズをはじめとする役者陣の演技もよく、エッジの効いた音楽、ラストの衝撃展開など非の打ち所がない映画だった。
宗教に神は宿ってる?
うお!オモロ!!
オスカー本命だったのに取り逃がしたと聞き、でも面白いんでしょ?と、期待に劇場へ。
ふーん、厳格たる宗教界でもスキャンダルとかニュースで見た事有りますよ、少年少女への性加害とか、金銭搾取とか。
本作ソコにズバズバ切り込んで来る。
教皇とか、枢機卿と言っても、全く汚れて無い聖職者なんて居ないんでしょ?って。
スキャンダルの暴き合いに誰が勝利するのか?のドキドキミステリー。
意外なトコから意外な新情報も上乗せされたり、お前らは一体何を比べているんだ?
ここまでは金田一みたいに見られます。
エンタメミステリです。
結局、宗教ってやっぱ信頼出来ねーな、って思ってたらラスト30分に突如怒涛の展開!!
えっ!!!??てスクリーンにビビった唐突なシーンに、神は見ているぞ、と思わせる絵から本来有るべき神の教え、観客が感じてた宗教への胡散臭さを刺しに来る。
あれよあれよと、大どんでんシナリオ!
わ!凄えな、キリスト教も現代にアップデートしたぞ、ても、これは映画で原作は小説らしい。
ありゃ、やっぱ現実の宗教はまだアップデートしないんだな。
⭐︎3.4 / 5.0
『トマス・ローレンス』の憂鬱
一般の日本人が「CONCLAVE」についての知識を持ったのは
「CX」で放送された〔トリビアの泉~素晴らしきムダ知識~〕との認識。
2000年代前半のことか。
新教皇が決定されるまでの長々とした選挙プロセスが
日本語の「根競べ」の音と近いこともあり、
番組内でも随分とウケたと記憶。
が、もともとはラテン語の「鍵を掛けられる部屋」の意らしく、
こちらの方が本作の趣向には合っている。
ローマ教皇の死去に伴い新教皇を選出するための「コンクラーヴェ」は、
出席する枢機卿の2/3以上の票を得るまで繰り返される。
選挙結果が決まらない時にはシスティーナ礼拝堂の煙突から黒い煙が、
決まった時には白い煙が上がり、
バチカンに集った信者たちは(勿論、マスコミも)
それに一喜一憂する。
全世界でも13億人以上の信徒がいるカトリックの頂点に立つ
僅か120前後しかいない枢機卿(本作では109人)。
さぞかし高潔な人物ばかりだろうだろうとの考えは
残念ながら当たらない。
彼らが絡む性的虐待事件は過去から連綿と続いている。
もっともここで描かれるのは権謀術数の類。
自身が教皇となる野望のため、
他者を出し抜き陥れるのに邁進。
それもその下準備は、現教皇が存命のうちから始まる。
なんとなれば「コンクラーヴェ」の場には
電子器具は持ち込めず、周囲には
ジャミングまで施され、
外界とのコンタクトは一切絶たれてしまうから。
聖職者としての資質そのものに首を傾げる人物も多々。
狭い世界では買収や讒言い不正行為、
加えて人種差別からの白人至上主義、
第47代アメリカ大統領と同様にDEI否定と
枚挙にいとまなし。
そんな枢機卿たちを見渡し、
「コンクラーヴェ」を取り仕切る主席枢機卿の『ローレンス(レイフ・ファインズ)』は
できるだけ高潔な人物が選ばれるよう腐心する。
彼には新教皇となる野望はない。
勿論、仲間内に推しはいるものの、
それよりも、より適正な人物をとの思いの方が強い。
そうした彼らの動きを
「コップの中の嵐」で世界が見えていないと断じる
アフガニスタンのメキシコ人枢機卿『ベニテス』がいる。
彼は、新参者で若者。
しかし戦火を自らで経験しているだけに
言葉には真実の響きがある。
鑑賞者の心にも重く響く直截的な言葉だ。
閉鎖された空間でも
事件は起き、新たな事実が提示され
度毎に情勢は二転三転。
しかし新教皇選出へと
パワーゲームは次第に収斂して行くのだが、
明らかになるのは途轍もない事実。
保守派はおろか、リベラル派をも嘲笑う、
いや、教皇庁の組織そのものに
鋭いナイフですぱっと切り込む衝撃が。
この結末には、驚愕するしかない。
本作の原作者は『ロバート・ハリス』で、
『ロマン・ポランスキー』が映画化した
〔ゴーストライター(2010年)〕も彼によるもの。
{ポリティカル・フィクション}と{ミステリ}の両方を兼ね備えた秀作を
ものしたことに感心する。
これは面白かった。
神のみぞ知る最高権力のゆくえ
ローマ教皇は、全世界にいるカトリック教徒13億人のトップに立つ最高位聖職者(聖座)としての宗教上の権威と、バチカン市国の国家元首として国際法上の権威の両方を保持している。
この地球上でも類を見ない絶大な権力は、神からの天啓によって与えられる━━━
わけもなく、泣くし怒るしお酒も飲むし、今時紙巻きタバコを吸うようなおじさんの集団によって与えられるのである。
先に述べた権力の前には人間の信仰心など蟻のようなもので、崇高な理想の名を借りた、野心渦巻く戦いの火蓋が切って落とされる。
名優レイフ・ファインズ扮する“疑念のトマス”は、さて、“主に愛されしヨハネ”に成れるのか。
13億信徒の頂点に必要な才覚は、革新なのか伝統なのか、はたまた別の御業なのか。
緊迫の2時間は、間違いなく最高の2時間だった。
コンクラーベで繰り広げられる政治闘争とミステリー
バチカン舞台のため映像を楽しみに鑑賞したが、想像以上にエンタメ性も高く面白かった。
コンクラーベで繰り広げられる政治闘争とミステリー。
絵になる構図と色のコントラストなどすごく作り込まれていて上質な映画だった。
絶対に見ることのできない教皇選挙を、一緒に隔離されて目の当たりにしているような感覚になり、気持ちが高まった。
最後の展開には思わずおー!となった。
これは映画館で観てほしい。
パンフレットもとても良く、中に投票用紙が入っているし、コンクラーベについての解説なども載っているため、もし知識が浅くて不安な方は、パンフレットの一章のコラムとキャラ関係図だけでも読んでから観たらきっと楽しめると思う。
今年はアカデミー賞前にノミネート作品の日本公開が少なく、事前に見られなかったが、個人的にはアノーラよりもこちらの方が好みだった。
確信
滑稽な権力闘争
小説を基にしたサスペンス風味の探偵ミステリー映画。
ドキュメンタリーではないけれども、一般人が生涯目に出来ない宗教儀式の様子が描かれると、本当にこんなことがあるのではというワクワクを感じます。
前半は多種多彩な登場人物の紹介とそれぞれの立場、コンクラーベのルール説明でやや眠くなりそうな展開ではありつつも、密室ともいえる教会建物内での情報戦は、緊張感にあふれていました。
中盤以降は、権謀術数乱れ打ちとひねりのある展開で、作品世界に引きずり込まれていきました。
権力と承認への欲求と自分の主義を押し通したいという欲に満ちたクソ聖職者たちの醜さと、カトリックの禁忌と差別を描いていて、まさに舞台はバチカンならぬバカチン。
やっと選ばれた新教皇に隠された秘密が大笑い。
亀の使い方がまた意地悪いほど皮肉がたっぷり。
これ、カトリックからクレーム来ませんか?(苦笑)
基本は描かれてる教会がそのものではなく、「俗社会の縮図・暗喩」であり、世界各国で起きている普遍的な権力闘争の愚かさを描いたものだから、カトリックの心の広さで許してくれるのかもしれません。
現実の問題を過剰に典型・類型化しすぎて、後半に行くに従いリアリティが損なわれていき、逆にドラマとしての面白さが増していきました。
その点で、面白かった。
それから、ラスト近くで右派闘争主義のキャラが「宗教戦争だ」と言い始めたシーンで、モンティ・パイソンの「スペイン宗教裁判」ネタを思い出して吹いてしまいました。
後半、ギャグっぽさが増していきますから特に。
聖と俗、時々カメ
アカデミー賞コンクラーベならば
ローマ法王死後の次期教皇を選ぶ選挙(コンクラーベ)における錯綜する権力欲や権謀術数を描いた物語です。女性聖職者を認め、他の宗教へも理解を深め、同性婚にも向き合おうとする改革派と、これまでのカトリックの伝統を守ろうとする保守派との対立は、現実のバチカンを反映しているとも言われています。
計算し尽くされたカメラがとにかく素晴らしく、緩む事のない物語の緊張感も抜群でした。そして、終盤の急展開も、M・ナイト・シャマラン的な単に驚かす為の仕掛けではなく、テーマを貫く強い主張と感じられて胸を揺さぶられました。
「アカデミー賞コンクラーベ」に投票するなら、『アノーラ』より本作だな。でも、本当は『名もなき者』だけど。
ローマ教皇を選ぶ選挙コンクラーベ。 今まで観ることのできなかったこ...
中々の傑作ミステリーで主人公を演じたレイフ・ファインズも他の主要人...
中々の傑作ミステリーで主人公を演じたレイフ・ファインズも他の主要人物の数人も名演技でずっと緊張感が続く。私はテデスコ枢機卿を演じたセルジオ・カステリットの演技もファインズと同等に良かったと思った。
確かにミステリー要素も楽しめるが、映画全体の日本離れした世界観が良く、巨大なセットが美しく音楽の "途切れ方" とかも良かった。
観てて途中「多分◯◯が実は◯◯だろう」と予想したが見事に外れた。
事前の勉強は不要だが、世界でおよそ14億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会のトップで「神の代理人」ともいわれる存在のローマ教皇(今はローマ法王とは言わない)のフランシスコ(来日もした)について調べとくのは良いと思います。
後、煙突の煙の意味とか。
※2025年現在 カトリック教徒14億人の頂点のローマ教皇はフランシスコ (第266代)でベルゴリオ枢機卿が2013年に教皇となった。
前教皇のベネディクト16世が2013年2月28日をもって辞任したことを受け、その後継を選ぶために同年3月12日より実施されたコンクラーヴェにおいて、翌3月13日、新教皇の選挙権を持つ80歳未満の枢機卿115名による5回目の投票で新教皇に選出されたらしい。
2023年 フランシスコ教皇は「司祭が同性カップルに祝福を与えることを許可する」と発表もしており 性的マイノリティー(LGBT)のカトリック教徒にとって、大きな前進となった寛大なお方。
追記↓
2025年5月のコンクラーベ(4回目の投票)で選ばれたプレボスト枢機卿は新教皇レオ14世と名乗る(Léon XIV)。前フランシスコから枢機卿として任命され、側近となった方。第267代教皇ロバート・プレボストはアメリカ出身の初めての教皇であり、1955年シカゴ生まれの69才、母はスペイン人、父はフランスとイタリアの血を引いている。
地位 名誉 権力 聖職
美しい映像でした。スクリーンいっぱいに白い傘と赤い上着のシーンは圧巻でしたね。
聖職者と言えども人を貶める、宗教戦争だと仕掛ける、買収する票を買う。
誰の為に、何の為に教皇になりたいのか?
本当にこんな人達なの?って感じでした。
そんな中で話の中心となるローレンス枢機卿の誠実さが際立っていました。
私が会社員として過ごして来たこれまでで、彼のような仕事ぶりを目指していたなぁと思い返しました。出来てませんけどね。
教皇選挙が終わった後のエピソードは蛇足かなとも思いますが、ビックリ!驚きと困惑のラストでした。
そしてラストの修道女3人が重苦しい選挙から解放されて楽しそうにシスティーナ礼拝堂から出てくるシーンが印象的でした。
戦う相手
コンクラーベをテーマにしたミステリーということで、予告からずっと気になっていた本作。期待をこめて公開初日の朝イチで鑑賞してきました。中高年を中心に予想以上の客入りで、みなさんの関心の高さがうかがえます。序盤こそ登場人物の多さに圧倒されて混乱しかけましたが、しだいに整理され、関係性が把握できてからはストーリーに没入でき、楽しめました。
ストーリーは、キリスト教最大教派カトリック教会の最高指導者・ローマ教皇が亡くなり、後任を決める教皇選挙「コンクラーベ」が行われることになり、世界中から100人以上の候補者が集まる中、システィーナ礼拝堂で極秘裏に行われる投票を執り仕切るローレンス枢機卿が、投票の裏で進められる陰謀に気づき、その真相に迫っていくというもの。
その名前と目的だけは知っていましたが、具体的なことは何も知らなかった「コンクラーベ」。本作では、それがどのように進められているのかが描かれ、大変興味深かったです。もちろんそれがどこまで現実のとおりかはわかりませんが、古くからのしきたりにのっとり、細かな手続きを経て、厳粛に進められていることは伝わってきます。
本作では、新教皇の座をめぐる水面下の駆け引き、騙し合い、票集めの取り込み、スキャンダル探し、裏工作によるライバル潰し等を、疑心暗鬼のミステリー仕立てで描いている点におもしろさがあります。まるで汚い政治の世界を見るような既視感にげんなりしますが、神に仕える聖職者でさえこのありさまなのかと、人間の醜い本質を浮き彫りにしているようで、いっそ清々しいです。
物語の後半、繰り返される投票と明かされる真実によって、しだいに候補者が消え、折から発生していた爆弾テロが教会にまで及ぶに至り、ローレンスたちにとって最も忌むべき相手テデスコが最有力候補として浮上してしまいます。いよいよ宗教戦争を覚悟すべきかと情勢が傾きかけたところで、ある人物によってもっと大切なことに気づかされます。我々が戦う相手は、ライバル候補者なのか、他宗教なのか、それとも…。
長いコンクラーベの末、ようやく皆が納得する新教皇が決定しますが、その後に用意されたどんでん返しが鮮烈です。古きよき伝統としきたりは、時に大切なものを見誤らせることにならないか、信仰に最も大切なものは何なのかと、観客にメッセージを叩きつけているかのようです。ラストでローレンスが拾い上げたカメは、実直なローレンスに後を託し、よりよき信仰を求めて変化を恐れず、歩みは遅くとも前に進むことを目指そうとした前教皇の姿と重なり、味わい深いです。
静かに展開するストーリーにやや眠気を誘われる部分もありますが、じりじりと真相に迫る展開に浸れれば、最後まで楽しめる本作。大人の知的好奇心を刺激し、それに見事に応える良作だと感じます。
主演はレイフ・ファインズで、コンクラーベの裏で奔走し、揺れ動くローレンスを好演しています。脇を固めるのは、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、カルロス・ディエス、セルジオ・カステリット、イザベラ・ロッセリーニら。第97回アカデミー賞で作品、主演男優、助演女優、脚色など計8部門でノミネートされ、脚色賞を受賞。
周囲は絶賛していますが、背景を思うと…
<致命的なネタバレを含みます>
映像をはじめ演出がとても美しく、俳優陣の迫力もとてもよかった。
ミステリーとしてもよくできているし、心理戦も素晴らしかった。
でも私はこれを手放しで人に薦めようという気持ちには、
今のところまだなっていません。
以下、これをご覧になっている方はすでに鑑賞済みという前提で書きます。
最後に選出された人についてはその人となりや属性から、
「希望が見いだせる」「よかった」という声が感想として多く聞こえてきました。
ですが、私はどうしても空しく悔しい気持ちが大きかったのです。
最後に仕切役が頭を抱えるその姿から私の耳に聞こえてきたのは
「ああなんということだ」という悲嘆でした。
本作の肝となる人物は、前教皇の進言に寸前のところで思いとどまりました。
その姿で今後に臨むことが本作の明るい未来なのだ、
きっとそう印象付けられているのだと思います。
しかしながら、おそらくその人物に対して見る目が変わってしまった仕切役の心、
あくまで秘密が明かされぬまま任務を遂行するであろう未来、
(仮に明かしたとすれば命すら脅かされないであろう現実)
これを思うと、なんとも居たたまれない気持ちになりました。
2025年、教皇庁の主要な役職に女性が就いたそうです。
ですが、これまでどれだけ優れていてもその座に就くことが叶わなかった人たち、
「見えないものとされた(今もなおされている)」人たちのことを思うと、
なんとも歯がゆい気持ちが残ります。
おそらくキリスト教、カトリックの世界を知っている人たちと、
私たちのようにキリスト教の普及率がそれほど高くない地域の人では、
この映画に対する感想も異なってくるのだと思います。
それはおそらく映画に造詣の深い男性なのか、
特に映画鑑賞を趣味としない女性なのか、
個人個人の背景によって着目するところが違うでしょうし、
各々にどのようなバックグラウンドがあるかによっても、
捉え方が変わってくるのではないでしょうか。
そのような意味で私は中央の点数をつけました。
声に出さないだけで、同じような思いを抱いた誰かと共有したくて。
なお、メタファーとしての亀やカナリアは膝を叩いた。
全738件中、601~620件目を表示
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。