「選挙管理委員はつらいよ」教皇選挙 KaMiさんの映画レビュー(感想・評価)
選挙管理委員はつらいよ
カトリックの教皇が亡くなり、後継ぎの選挙を委ねられた首席枢機卿のローレンス。宗教的カリスマを選ぶにもかかわらず、完全に人間と人間の権力争いであり、アメリカ大統領選挙や日本の総裁選を思わせる話だった。
ローレンスは総裁選でいえば幹事長のような実務系リーダーという位置づけだろう。世間から隔離されて厳粛に行うべき儀式を遂行するだけでもかなりのプレッシャーがあるが、有力候補者のスキャンダルなど次々に問題が持ち上がり苦悩する。
面白いのは中立であるべきローレンス自身が弱小派閥に属していて、自分たちのリーダーに票を集める密議にも出席しなければいけない。一方、自分自身も候補者としてわずかに票が集まっている。ローレンスはせっかく派閥リーダーに投票しているのに、リーダーはローレンスに集まった票を見てつむじを曲げてしまう。最後にはリーダーもローレンスに人徳があるのを認め、ローレンスも自分自身に投票するに至る。
そうなのだ、首席枢機卿として選挙を取り仕切ることができる器だということが、教皇としての資質を潜在的に意味している。荘厳な礼拝堂、枢機卿が顔をそろえる大広間が、ローレンスの舞台だ。公平な人物のローレンスは、自分が名乗り出なくても「推される」だけの価値がある。しかし、それを上回る人物が最後には教皇職をかっさらっていく。大筋、そんな物語だったと思う。
若干あれっと思ったのは、ローレンスはスキャンダルを抱えた候補者に直接詰め寄っていき諦めさせるなど、立ち入った行動にも及んでいる。政治でいえば身体検査みたいなもので、任命責任が問われては大変だ。それにしても政治工作のような行動は、結局選挙結果に汚点を残すことにならないだろうか。
候補者同士が対立する理由について、もう少し思想的な深みが欲しいとも思った。確かにイスラム教徒などの敵を作って戦うのか、内面で信仰を深めるかの対立は描かれているが、こんなに老獪な人たちが最後には「正論」に諭されて投票したのかと思うと、やや拍子抜けだった。総裁選では「選挙で国民に通用するか」という大義に殉じる余地もあるが、この場合は何が決め手になったんだろうか。
書き留めておきたい台詞は、宗教者に必要なのは確信ではなく疑念を持ち続けること。理想を求め続けることが大事であって、理想そのものを体現する教皇を選ぶのは不可能だ(大意)。所詮は人が人を選ぶのであって、そのなかで揉まれて石が玉となっていくように、リーダーの器は作られていくのかと思った。
