「あの窓から差し込む陽光に、各国の枢機卿は何を見たのか」教皇選挙 えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)
あの窓から差し込む陽光に、各国の枢機卿は何を見たのか
全世界に14億人以上の信徒を有するキリスト教最大の教派、カトリック教会。その最高指導者にしてバチカン市国の元首であるローマ教皇が、死去した。悲しみに暮れる暇もなく、ローレンス枢機卿は新教皇を決める教皇選挙<コンクラーベ>を執り仕切ることに。世界各国から100人を超える強力な候補者たちが集まり、システィーナ礼拝堂の扉の向こうで極秘の投票が始まった。票が割れるなか、水面下で蠢く陰謀、差別、スキャンダルの数々にローレンスの苦悩は深まっていく。そして新教皇誕生を目前に、厳戒態勢下のバチカンを揺るがす大事件が勃発するのだった……(公式サイトより)。
コンクラーベと呼ばれる教皇選挙が初めて行われたのは1271年だそうだが、その理由は「イタリア派とフランス派で合意がなされず、3年間空位が続いたから」とのこと。それから750余年を経てもなお、聖書に綴られた教義よりも、権力の頂点に登り詰める人間の野心こそが普遍的な真理である、とでも言わんばかりに本作でも同じような権力闘争が繰り広げられる。
要所に織り込まれるキリスト原理主義的視点、黒人蔑視と白人至上主義、根強いユダヤ人差別やイスラム教への偏見、権威主義、性的スキャンダル、女性蔑視ともとれる教義性、利権や権力に群がる野心や策謀など、各国の信仰を司る枢機卿でもこんなにも世俗的なのかと辟易させられつつ、複層的な伏線が幾重にも張り巡らされたストーリー展開は極上のミステリーで目が離せない。何よりその緊迫感を生み出している「鼻の呼吸音」は天才的な演出方法である。美術チームが10週間かけて作り上げたシスティーナ礼拝堂や枢機卿の衣装は抜群に美しく、どこか「落下の王国」を彷彿とさせる。
「わたしたちは理想に仕えてはいるが、わたし自身は生身の人間で理想そのものではない」というある枢機卿のことばと、「確信を持つと揺らぎや疑念がなくなり信仰が必要なくなる。つまり確信は罪である」という主人公の首席枢機卿の科白が印象的。それは、平和どころか戦争の火種になり得て来たカトリックそのものへの自己批判である。長きにわたり、キリスト教は、カトリックは、教会は、バチカンは何に祈り、何を守ってきたのか。そして、かれらはこれから何に祈り、何を守っていくのか、そのためにカトリックが変わるべきところはどこなのか。あの窓から差し込む陽光に、各国の枢機卿が何かを見てからの怒涛のクライマックスは爽快なカタルシスでもある。
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