「時事性も織り込んだ、傑作ミステリ」教皇選挙 キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
時事性も織り込んだ、傑作ミステリ
結論。
とっても面白いミステリでした。
一般常識的な知識があれば、予習も不要。
人の名前が少し多いので、ちゃんと覚えながら観るとより早く馴染めます。
(ここから先、ストーリーとネタバレに触れます。)
カトリック教会の「教皇」という、支持者の数で言えばアメリカ大統領を遥かに凌駕する影響力や名声を手にする権力者を決めるコンクラーベ。
こんなに興味深いテーマなのに、これまで映画などでもあまり取り上げられて来なかった気がする。ま、情報が無さすぎるからなんだろうけど。
閉じられた空間の中、「聖職者」が聞いて呆れる権謀術数。
その地位を手に入れるために、説得や駆け引きはもちろん、買収や謀略が繰り広げられていき、有力な候補者が次々と舞台を去ることに。
成り行き上(当初望んでいなかった)主人公が、先代の遺志を継ぐいわば「リベラル」派の代表としてついに立ち上がる意思を示した時、テロによる爆破事件が発生し、投開票の会場となる大聖堂の高い窓が破壊される。
密室でお互いが疑心暗鬼になりながら、自分と自分の仲間のことしか頭になかった彼らの前で、主人公の「リベラル派」、先代までの方針に批判的な「保守派」とは異なる第三者である、中東の紛争地域で活動する枢機卿ベニテスが放つ「敵は自分の中にいる」「教会は前に進まなくてはならない」という言葉。
まさに、破壊された窓の外から吹き込む外界からの風を感じた枢機卿らは、閉じられた場所で内向きな争いを続けてきた自分達を振り返り、外を向いて前に進むための選択をする。
ここまでは、コンクラーベをテーマにした物語として、「いい話」ではある。
しかし、ここで話はおわらず、本作最大のサプライズが明かされる。
選ばれた新教皇ベニテスは、インターセックスであったという衝撃の事実。
ベニテスは前教皇承知のもと、このコンクラーベに、あえて子宮や卵巣の摘出などを行わずに臨んだ。
「この身体も神の御業であるから」と。
まさにキリストのとなえた「神の前では皆平等」。
女性の枢機卿、ひいては女性教皇の何が問題なのか。
今回のコンクラーベで、30年前の女性への暴行で失脚した枢機卿は、アフリカ系の黒人という、西欧社会では差別されてしまう側にいながら、LGBTQに対しては差別的な思想を持っていた。
差別は、誰の中にでもある。
ベニテスが言った「戦う相手はいつも自分の中にある」という言葉は、そうやって他を排除してしまう自己を省みよという意味でもあり、また、ベニテスにとって自身のまさに「中」にある「女性としての自分」との向き合い方にも繋がっていく。
ベニテスが好きだと語った亀は、キリスト教世界においては「不動」「忍耐」「知性」のイメージで語られるらしい。
自らを外界から隔離し、視線を「中」に向け続けるコンクラーベというステージだからこそ、見えなくなるものがある。
自分たちがどうあるべきか。それは、外界との関係や立場を踏まえてこそ初めて答えが見えてくるのでなはいか。
そして、これはコンクラーベなどという特殊は場所だけでなく、世界の多く、我々の周りでもあちこちで見られる内向きで不毛な派閥争いを表している。
彼らは、テロリズムによって数十名の市民の命を失ったことでようやく前に進むことができたという皮肉でもある。
「私たちは教会につかえているのではない。神につかえているのだ」
「裏切り者、ユダめ」
印象的なセリフもたくさん。
普遍的な内容でありながら、「多様性」や「民族紛争」などといった時事的なテーマも織り込んだ、よくできたミステリ。
レイフ・ファインズの渋い演技に、ジョン・リスゴーの巨体悪役感も健在。
黒と赤と白の画面デサインも美しい。
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