劇場公開日 2025年3月20日

「『トマス・ローレンス』の憂鬱」教皇選挙 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5『トマス・ローレンス』の憂鬱

2025年3月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

難しい

一般の日本人が「CONCLAVE」についての知識を持ったのは
「CX」で放送された〔トリビアの泉~素晴らしきムダ知識~〕との認識。
2000年代前半のことか。

新教皇が決定されるまでの長々とした選挙プロセスが
日本語の「根競べ」の音と近いこともあり、
番組内でも随分とウケたと記憶。

が、もともとはラテン語の「鍵を掛けられる部屋」の意らしく、
こちらの方が本作の趣向には合っている。

ローマ教皇の死去に伴い新教皇を選出するための「コンクラーヴェ」は、
出席する枢機卿の2/3以上の票を得るまで繰り返される。

選挙結果が決まらない時にはシスティーナ礼拝堂の煙突から黒い煙が、
決まった時には白い煙が上がり、
バチカンに集った信者たちは(勿論、マスコミも)
それに一喜一憂する。

全世界でも13億人以上の信徒がいるカトリックの頂点に立つ
僅か120前後しかいない枢機卿(本作では109人)。

さぞかし高潔な人物ばかりだろうだろうとの考えは
残念ながら当たらない。
彼らが絡む性的虐待事件は過去から連綿と続いている。

もっともここで描かれるのは権謀術数の類。
自身が教皇となる野望のため、
他者を出し抜き陥れるのに邁進。

それもその下準備は、現教皇が存命のうちから始まる。
なんとなれば「コンクラーヴェ」の場には
電子器具は持ち込めず、周囲には
ジャミングまで施され、
外界とのコンタクトは一切絶たれてしまうから。

聖職者としての資質そのものに首を傾げる人物も多々。

狭い世界では買収や讒言い不正行為、
加えて人種差別からの白人至上主義、
第47代アメリカ大統領と同様にDEI否定と
枚挙にいとまなし。

そんな枢機卿たちを見渡し、
「コンクラーヴェ」を取り仕切る主席枢機卿の『ローレンス(レイフ・ファインズ)』は
できるだけ高潔な人物が選ばれるよう腐心する。

彼には新教皇となる野望はない。
勿論、仲間内に推しはいるものの、
それよりも、より適正な人物をとの思いの方が強い。

そうした彼らの動きを
「コップの中の嵐」で世界が見えていないと断じる
アフガニスタンのメキシコ人枢機卿『ベニテス』がいる。

彼は、新参者で若者。
しかし戦火を自らで経験しているだけに
言葉には真実の響きがある。

鑑賞者の心にも重く響く直截的な言葉だ。

閉鎖された空間でも
事件は起き、新たな事実が提示され
度毎に情勢は二転三転。

しかし新教皇選出へと
パワーゲームは次第に収斂して行くのだが、
明らかになるのは途轍もない事実。

保守派はおろか、リベラル派をも嘲笑う、
いや、教皇庁の組織そのものに
鋭いナイフですぱっと切り込む衝撃が。

この結末には、驚愕するしかない。

本作の原作者は『ロバート・ハリス』で、
『ロマン・ポランスキー』が映画化した
〔ゴーストライター(2010年)〕も彼によるもの。

{ポリティカル・フィクション}と{ミステリ}の両方を兼ね備えた秀作を
ものしたことに感心する。

ジュン一
ジュン一さんのコメント
2025年3月23日

現実は(前)教皇の描いた絵図を超えて動いたのかも、と思いました。
天使(堕天使も)は両性具有との説もあり、本作の結末はなかなかに興味深いです。

ジュン一
ノーキッキングさんのコメント
2025年3月22日

ベニテスという亀が教皇の遺志でした。
アメリカ出禁のポランスキー『ゴーストライター』も良かったです。

ノーキッキング
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