「システィーナ礼拝堂の重厚かつ静謐な空気感が伝わってくる名作」教皇選挙 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
システィーナ礼拝堂の重厚かつ静謐な空気感が伝わってくる名作
(今回追記分)
ANAの国際線で日本公開前に鑑賞できた「教皇選挙」ですが、3月20日にようやく劇場公開されたので、観に行って来ました。先週末に観ようとしたものの、非常に人気があるようで、何処の劇場も満席のオンパレード。仕方ないので平日に行きましたが、それでも8割方の入りで、その人気を実感するところでした。
改めて観た結果、当たり前ですが、機内のモニターで観たのとは比較にならない迫力で、やはりスクリーンで観るのはひと味もふた味も違うと感じました。また、機内では途中機内アナウンスが入ったりしてやむを得ず中断することもありましたが、劇場ではそうしたことがなく、きちんと集中して観ることが出来、本作の理解もより進みました。
さらに、最初に観た時は字幕を追うのに必死で、画面全体をゆっくりと眺めることが難しい一面がありましたが、筋の大枠が分かってみた今回は、映像美や音楽、効果音などにも集中することが出来、初回以上の楽しみを得ることが出来ました。
内容的に感じたことは、序盤でチェスが上手な前教皇を評して、「常に8手先を読んでいた」というセリフがありましたが、結局本作の大筋は、この一言に集約されていると改めて感じました。自らの死期を悟り、次期教皇になるべき人がなるように配慮したというか、言い方を変えれば”陰謀”を企てた前教皇は、死してなおローマ教会をコントロールしており、コンクラーベで対立した100人を超える枢機卿たちも、結局は前教皇の掌の上で踊らされていたんではないのかと思い、そのスケールのデカさに感心したところでした。
また、枢機卿の衣装や、システィーナ礼拝堂の建物の荘厳な雰囲気が、実に宗教的な神秘性を強調する一方、次期教皇を巡って有力候補たちが仕掛けた謀略は、極めて俗世的で、悪い意味での政治闘争そのものであり、そのギャップが非常に上手く表現されていたところが本作最大の見所だったのではないかと思いました。
さらに、今アメリカのトランプ政権が否定することに躍起になっている「DEI」、即ち「Diversity(ダイバーシティ、多様性)」、「Equity(エクイティ、公平性)」、「Inclusion(インクルージョン、包括性)」の一つである「ダイバーシティ」というのが本作上のコンクラーベのテーマになっていて、結局「ダイバーシティ」の象徴のような人が新教皇になったことも、現代世界に対するメッセージ性も抜群で、こうした社会性が土台にあることも、本作が注目される一因なのではないかと考えられるところでした。
役者陣に関しては、主役のレイフ・ファインズはじめ、どなたも見事でしたが、今回改めていいなと思ったのは、イザベラ・ロッセリーニ演じるシスター・アグネスでした。男性のみしかいない枢機卿によって選出されるのがローマ教皇ですが、有力候補の陰謀に対して、「神は私たち(シスター)に目と耳を与えて下さった」として、言葉を選んで”悪者”をバッサリと切る彼女の一言は、本作のセリフの中でも出色のものだったと思います。
以上、ようやく劇場で鑑賞した上での感想を追記しました。やはり映画は劇場で観るに限りますね🎬
(3月11日UP版)
日本公開が3月20日の本作「教皇選挙」ですが、ANAの国際線に乗ったら機内放送でやっていたので、ラッキーにも一足先に観ることが出来ました。
まず第一印象ですが、とにかく映像から漂って来る質感が最高でした。教皇が亡くなり、新しい教皇を選出するための”Conclave(コンクラーベ)”は、実際にコンクラーベが行われた時に日本でも報道されていたので存在は知っていました。でもその内部でどのようなことを行われていたかは知らない訳で、秘密のベールの中を覗き見ることが出来たという意味でも、非常に興味深い作品でした。
映画の舞台はコンクラーベが行われるシスティーナ礼拝堂。言わずと知れたカトリック教会の総本山にして、バチカンの中心にある礼拝堂ですが、平素でも荘厳な雰囲気を漂わせる建物の内部が、コンクラーベの開催により緊張感が漲っており、この辺りの空気感の演出は、近年稀にみるものだったと感じられました。また、コンクラーベを取り仕切る役目を担うことになった主人公・ローレンス枢機卿を演じるレイフ・ファインズは、個人的に「ザ・メニュー」における狂気のシェフ役の印象が強く、ローレンス枢機卿が最後にシスティーナ礼拝堂を燃やすのかと思いつつ観ていましたが、実際は極めて真っ当で穏当で冷静な調整役として終始活躍していました。
本作の見所としては、前述の通りシスティーナ礼拝堂そのものであり、普段は重厚で静謐な礼拝堂の中で行われるコンクラーベ=戦争という”動乱”のコントラストにゾクゾクさせられました。予告編でも紹介されていましたが、周辺で勃発したテロの影響でシスティーナ礼拝堂の天井の一部が落ちて来るシーンは、緊張感が最高潮に高まるシーンでした。
また、実際のカトリック教会の中で論点となっている”リベラルな教皇”という問題についても切り込んでいる点も忘れてはならないように思いました。少し前に体調不良が報じられた現教皇のフランシスコですが、一般に”リベラル”な教皇と言われており、同性愛や離婚、中絶に対する態度が、”保守派”から懸念されているということが度々報じられてきました。本作では、前教皇が亡くなってコンクラーベが開催されることになる訳ですが、この前教皇はフランシスコ教皇同様にリベラルの立場にあったようです。そのため、今回のコンクラーベでは保守派の巻き返しが行われることになりました。そういう意味では近未来にあるだろうコンクラーベを描く作品であるとも捉えることが出来るのではと感じたところです。
果たして次期教皇は誰になるのか?その結末が実に意外な方向に行った点も唸りました。現実の次回コンクラーベがどういう考えを持つ人になるのかは分かりませんが、本作を観たことで非常に興味深いものになることは間違いないでしょう。
そしてラストシーンも印象的でした。無事にコンクラーベが終わりほっとするローレンス枢機卿が部屋の窓を開けると、外からは日常の生活音が聞こえて来る。これで彼個人にとっても、カトリック教会全体にとっても、平和な日常が戻って来ることを印象付けるところが心地よく、最後まで楽しめる締めくくりでした。
そんな訳で、本作の評価は★4.8とします。